3月23日、24日の2日間にわたり、Microsoftが提供する、開発者の創造性を支援する発信基地:Azure Antennaのある渋谷ヒカリエ8階のCreative Lounge MOVでハッカソンイベント『シブヤクハック』が開催された。
テーマは渋谷区の課題をITで解決すること。
渋谷区職員が各チームに参加し、カッティングエッジなエンジニアや学生エンジニアが様々なツールを駆使し、1.5日間で集中的にプロトタイプを製作した。
e-スポーツのような開発風景の実況中継、3万人を超える観客、遠隔からの参戦者など、図らずもハッカソンの新しいスタイルを生み出したとも言える本イベント、その一部始終をお届けする。
若者文化を発信する商業集積地、大勢の観光客が押し寄せる人気観光地、広尾や松濤といった高級住宅街――渋谷にはさまざまな顔がある。
渋谷区の常住人口(夜間人口)は約22万人、通勤や通学で来訪する昼間人口は約54万人と、2.5倍に達する。この比率は東京都23区内で4番目。それだけ大勢が行き交う活気あふれる区だと言える。
そんな渋谷区が抱える社会課題をテクノロジーで解決していこうというのがハッカソンイベント『シブヤクハック』の目的。
イベント開催に先駆けて、渋谷区役所の現場で働く若手職員5名がワークショップを行い、日頃業務を行う中で感じる課題を掘り下げ、抽出した。
その時の様子はこちらで視聴することができる。
たとえば「転出入が多い春先は区役所窓口の待ち時間が長くなる」「ゴミのポイ捨てが多く、景観を損ねている」などの課題が指摘された。また、渋谷駅周辺は再開発事業の影響で歩道や歩行者用通路が頻繁に変更されており、「ベビーカーや車いすを使う人たちは歩きやすいルートを探すのに困っている」との意見も出た。
今回のイベントでは多数挙げられた課題から厳選した27個がテーマとして提供された。
今回のイベントには一般参加のエンジニアのほかに、マイクロソフト学生パートナー(MSP – Microsoft Student Partners)、さらに社会課題の抽出を行った渋谷区職員も参加。
サポーターとしてマイクロソフト社のコマーシャルソフトウェアエンジニアリング本部のテクニカルエバンジェリストや、MVP(Most Valuable Professional)アワード受賞者が加わった。
目指すは今回のイベント限りの作品ではなく、イベント後に実際の区民サービスとして提供できるようなモノをつくること。そのために必要な技術支援として、マイクロソフトから、クラウドコンピューティングプラットフォーム「Microsoft Azure」の強力なサポートがつけられた。
3月23日18時半、会場にエンジニア16名を含む参加者が集結し、いよいよスタート。
初めに渋谷区の社会課題に関する説明が行われ、その後、渋谷区職員を中心に課題の掘り下げやアイデア出しが行われた。
課題抽出のワークショップに参加した渋谷区職員もメンバーとして参加しており、エンジニアからの詳細なディープインタビューに対応。
さまざまな意見交換を経て、参加者は27個ある課題の中でも特に重要だと思うものでかつ、自分なら解決できると考えられるものに投票。その結果、5個の課題が選出された。
参加者はこれら社会課題のなかでも特に関心が高いものを選び、そこでチームを結成。
各チームにはその課題に詳しい区職員と、マイクロソフトの支援メンバーも分散して参加。
さらに、会場の様子はニコニコ生放送でリアルタイムの実況中継が行われ、Slackのワークスペースも開放することで、遠隔参加あるいは遠隔支援が可能な体制とし、今回は保谷と富山に住むエンジニアがリモートでの参加を表明した。
このチームは「ダイバーシティ:面白い人たちが表現する場所があまり無い。」という課題に挑戦することになり、合計6チームによるハッカソンがスタートした。
各チームは改めて解決したい課題と向き合い、どのようにして解決すべきかのアイデアをまとめていき、それぞれ議論した内容をアイデアシートに落とし込み、ハッカソン情報共有サイト「Hacklog」で共有した。
イベント2日目は朝10時から会場がオープン。
各チームとも夕方の発表に向けて手を動かし続けるが、そのさなかにもニコ生の実況中継は続き、“デプロイ王子”こと日本マイクロソフトAzureテクノロジースペシャリストである廣瀬一海さんらが実況中継を行った。
動画プラットフォームを活用したイベント中継は近年よく行われているが、1.5日間という長時間にわたり、しかもハック中に実況と解説を続けるというスタイルは全国初の試み。
開発をスポーツのように実況でレビューし、参加者は選手のように自分のコードについて解説者と議論をする。視聴者からもユニークなコメントが多数寄せられ、その姿はまるでスポーツのようだった。
ハックタイムは17時に終了。
17時半から作品発表とタッチアンドトライが行わた。
1,5日間という短時間で製作・発表された各チームのプロトタイプ概要は下記のとおり。※発表順
渋谷には面白い人たちが大勢いるのに表現する場所がないという課題に着目し、スクランブル交差点でパフォーマンスを披露できるVRサービスを考案。
スクランブル交差点の信号は歩行者用、自動車用2種がそれぞれ60秒間の設定なので、自動車用信号が青色の120秒間は信号待ちをしている約3000人の歩行者に対してパフォーマンスが可能。パフォーマンスしたい人たちはWeb上で日時を指定して申し込み、希望者多数の場合は見たい人が何を見るかを選べるようにする。
渋谷駅周辺は2027年まで続く再開発事業により、さまざまなルートが日々変化して分かりにくくなっているので、道路工事情報などを逐一収集しながら、最新の地図情報を提供したい。
現在も音声付き道案内板や簡易地図の配布などもあるが、使い勝手がよくないので、QRコードを使ってバリアフリーマップを閲覧できるようにする。技術的にはBOTの活用、音声対応、多言語対応などを考えている。東京オリンピックパラリンピックの2020年までに渋谷が車イスで移動する人たちにも“優しい街”であることを目指す。
区民や来街者の意見をダイレクトに集るアプリ『シブヤクポスト』を提案。このアプリは誰でも投稿でき、職員が自由に閲覧できるのが特徴。投稿には区内のイベント告知や桜開花情報などもあれば、「ここの舗装が壊れている」といった情報もあるので、メッセージの性質(苦情、提案、報告等)で分類できるようにする。日本語以外にも、英語、中国語、韓国語にも対応させる。
投稿者は情報の公開/非公開を選択でき、公開情報には「いいね」ボタンのようなものを設置。「いいね!」の件数は区が何かしらの対応を検討する際の材料となる。
区役所本庁の混雑状況が事前に分かれば、出張所などの利用を促進できるのではないか、との仮説に基づき、利用者に対して混雑情報をLINEで配信するサービスを提案。LINEを選んだのは高齢者でも子どもや孫との交流にLINEを使っている人が多く、使い勝手が良いと判断したから。
技術的には施設内のデジタルサイネージを使用して画像を撮影し、そのデータ解析から庁舎内の混雑状況を判定する。利用者はLINEで登録すれば、その状況を閲覧できる。
渋谷は外国人観光客に人気の街だが、一部スポットに集中してしまうという課題がある。原因は、街紹介アプリや情報媒体は日本人向けに作られていて、外国人にとって魅力的なスポットを発信できていないからではないかとの仮説のもと、外国人を対象にした観光アプリを提供する。
たとえば、中国では決済サービスが進展しているので、中国人向け決済に対応できるスポットを検索できるようにする。また、ハラールやグルテンフリーなども、対応店舗を検索できるようにする。
ゴミのポイ捨て問題の解決を目指す。具体的な対策を考えるためには、いつ、どこで、どのくらいのゴミがポイ捨てされているのか、実際のデータが必要。そこで、まずはツイッターやインスタグラムに街の風景を投稿してもらい、画像データを集める。キャッチーなハッシュタグをつけると、面白がって投稿してもらえるはず。
得られた画像データは解析・可視化し、それをもとに区内のどこに、どのくらいのゴミ箱を置けばよいのかという戦略を立てる。また、設置したゴミ箱情報は地図上にプロットする。
以上の各チームのプロトタイプはこちらに詳細が掲載されている
今回のイベントは審査員による審査ではなく、参加者による投票で優れたアイデアを選び出した。
参加者は1人2票、渋谷区副区長の澤田伸さんとマイクロソフトのAzureビジネスチームを牽引する相澤克弘さんはそれぞれ10票を持ち、良いと思ったアイデアに投票。
その結果、チームスリーの『車イスに優しい渋谷/Kind Shibuya Navigations』が最も多くの票を集め、トロフィーと副賞が贈られた。
「ロジックが一番しっかりしていたのはゴミのポイ捨て問題でしたが、残念ながら具体的なアクションがなかった。可視化して分析したものを生かすソリューションがあれば、このチームに全票を投じたと思います。ゴミ問題は我々にとっても喫緊の課題だからです。
チームスリーはテーマ選定が良かったです。行政というのは弱者の目線を忘れてはいけない組織。子どもからお年寄り、ハンディキャップの方々をどうテクノロジーで支援していくことができるのか、とても重要なテーマです。唯一、再検討してほしいのは事業の進め方です。先ほどのプレゼンテーションでは区職員が地図情報の収集等を担うとのことでしたが、民間事業者が連携して開発・運営費用を賄っていける仕組みを作ることが前提。行政はみなさんの活動を後押ししたいと思っています」
「区の駅周辺整備課に所属し、普段から多くの苦情を承っているので、これは特に解決したいテーマでした。タイトルは車イスとしていますが、ベビーカーを引いている人やスーツケースを持つ旅行者にとっても便利なサービスで、あらゆる人を救える可能性があると思っています」
「僕は地方出身で、キャリーバッグを持って東京で迷子になったことがあることがあるので、このテーマを選びました。このアプリを開発できたのはマイクロソフトの提供ツールがったからで、サポートしてくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです」
「このイベントに参加するにあたり、事前にテーマを決めない、怒りを解決するテーマを選ぶという2点だけを決めていました。交通において、渋谷は優しくないと思っています。地下街で目が見えない人が迷っていて、手を引いて地上へ案内したことがあり、この怒りは解決すべきだと思いました。今後の展開は未知数ですが、この課題を解決できれば、そのほかの自治体にも適用できると思います」
初日を含めて12時間以上に及んだニコニコ生放送の実況中継は「シブヤクハック!」の掛け声で締めくくり、ハッカソンイベント『シブヤクハック』は無事終了。
合計視聴者は3万人、コメント数は2千件を超えた。
普通のハッカソンの参加者は、大規模なものでも100名程度。遠隔での参加者を募るイベントも近年増えてはいるが、これほどまでに注目を集め、インタラクティブなハッカソンイベントは全国で初だろう。
話題の地方創生や働き方改革をはじめとして、行政と民間の共創はどんどん加速している一方で、ハッカソンは、旬を過ぎた、オワコンだと言われ、参加者も固定化している傾向にあった。
しかし今回のMicrosoft×渋谷区の『シブヤクハック』はこれまでに無いほど、一般観客からの注目を集め、参加者と行政職員のモチベーションの高いものになった。
社会の課題を解決する手法として、
そして新しいハッカソンのスタイルとして、
シブヤクハックはどんどん展開を広げていく可能性を示した。
なお、本ハッカソンで生まれたアイデアやプロトタイプは今後オープンソースとして開放され、渋谷区をフィールドに展開したい方とともに、進めることとなる。
ご興味を持たれた方は、こちらの「Hacklog」からメンバーにぜひお声がけいただきたい。
2018年3月/2days
30名程度/チーム:6チーム