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電力データを基盤に新たな価値創造と社会課題解決を目指すアイデアソン
グリッドデータバンク・ラボ 有限責任事業組合 様

電力データを基盤に新たな価値創造と社会課題解決を目指す

〜電力会社が異業種会員団体のイノベーションをサポート〜

グリッドデータバンク・ラボ 有限責任事業組合様 事例インタビュー

東京電力パワーグリッドとNTTデータが出資し、2018年11月に設立されたグリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合(以下、GDBL)。2019年春には、関西電力・中部電力が参加し、東京・半蔵門に4社から常駐しているメンバー16人が執務する共創・交流拠点がオープンし、事業が本格的にスタートしました。

今後全世帯・事業所に普及するスマートメーターにより得られる「電力データ」を基盤に、大手企業・自治体等を中心に現在約80の会員の持つデータやアイデアを掛け合わせ、新たなビジネス創造を目指しています。

そのGDBLの事業初年度前半、Hackcampは視覚会議を用いたラボのビジョン形成と、参加企業様向けのアイデア創造イベントの企画運営で活動に伴走しました。チーフディレクターの平井崇夫(ひらい・たかお)さんとサービスデベロップメントチームのみなさんに、開催したアイデアソン、それに先立つ視覚会議とGDBLが目指す役割などについて話をうかがいました。

1.「本社ではできないことができる」ラボ

東京電力グループエリアでは、2020年度までに約2900万台のスマートメーター導入が計画されています。スマートメーターとは、従来は月1回の検針により把握していた電力使用量を、30分ごとに遠隔通信により計量できる電力量計です。

GDBLは、このスマートメーターで得られる情報のような電力データ(グリッドデータ)を出発点に、会員企業・団体の持つデータやアイデアを掛け合わせ、多様化する社会課題の解決やビジネス価値の創造に向けて仮説構築や概念実証(PoC)を実施し、将来的な実現に向けた検討・準備を推進する場です。

会員は、小売り、金融、保険、宅配などの大手企業がメーンですが、東京都水道局や足立区といった自治体からも参画があるなど、多岐にわたります。電力データと異業種データをかけあわせて、新しいビジネスの創造につながる種を生み出すため、1年目の今年(2019年度)はアイデア創発と具体的なユースケース検討に力を入れています。「ふだん自社ではできない多様な意見を交わせる場を意識して、データ活用の未来・可能性を探るインキュベーションサポートの視点を大切にしています」と、平井さんは話します。

また、現在検討が先行して進められているデータ活用領域は、地域単位で電力データの動向を集約した「統計データ」ですが、「世帯・事業所単位のデータ」が活用される未来についても国の委員会などで議論が始まっています。平井さんは個人情報の保護に留意しながらも、「今から、どのようなサービスが価値を持つのか、会員企業・団体とアイデアを出しあい、対話を深めてデータ活用の可能性を拓く政策提言につなげていく」というGDBLの役割を認識しています。

2.本質に迫る「視覚会議」の腹落ち感

インキュベーションサポートをミッションのひとつとするGDBLですが、集まったメンバーは多くが電力会社という「安全第一のインフラ企業の出身」です。ワークショップ等に参加したことがあっても、一からの企画は未経験というメンバーがほとんどでした。「アイデア出しのサポートがほしい」。サービスデベロップメントチームのメンバーは、会員企業・団体とともに新しいサービスづくりの一歩を踏み出す際に、アイデアを広げる手法が豊富な企業を探し、GDBLで推進していたインキュベーションサポートのフレームに思想が近いHackcampにたどりついたそうです。

アイデアソン企画の具体化の前に、Hackcampは、まずGDBL側に「なぜアイデアソンをするのか?どんなアイデアソンにしたいのか、そのビジョンを『視覚会議』メソッドを使って合意形成しましょう」と提案しました。

50分間、個人ワークとグループでのキーワード出しを繰り返し、ひたすら頭脳を高速回転させ「大切なことは?」「具体的には?」と問いをたたみかけながら、「ありたい姿」に迫っていく視覚会議のプロセスに「もっとふんわりとしたワークショップだと予想していたら、ぐいぐいと迫っていく方法だった」と平井さんは、濃密な空気に驚いたそう。

メンバーの1人、田端さんは「アイデアソンといっても(企画側の)私たちの目線がバラバラであることに気づかされました」「4社から集まったアイデアソン未経験のメンバーが、1つのビジョンを創造していく手法としてとても有効だと思いました」と話します。

合意形成には時間がかかると思われがちですが、短時間で個人の視点からキーワードを出して深掘りし、最終的に全員で「大切だ」と感じた言葉で作文をするため「腹落ち感となにより一体感が出ました」と、メンバーは手ごたえを感じたといいます。また、「メンバーそれぞれが大切にしていることも理解しあえた」(西尾さん)、視覚会議の場はチームビルディングとしても機能しました。

3.異彩放つゲストが示す柔軟な視点

視覚会議を経て決まったアイデアソンイベントのテーマは「思わず自分の電力データを提供したくなるサービスや仕掛けとは?」。個人単位の電力データ活用に関してはまだ法制度が整備されていない状況ですが「どうしたら個人が電力データを出したくなるのかというユーザー視点からのデータ活用の可能性を今から考えておきたい」(平井さん)と、このテーマが設定されました。

基調講演のゲストとして、Hackcampではアプリ開発・自然言語処理サービスを企画しているベンチャー企業「メンヘラテクノロジー」社長の高桑蘭佳さん(らんらんさん)を推薦しました。現役大学院生でもあるらんらんさん独自のアイデアの創造プロセスを聞いたのちに、会員企業・団体から募集した参加者とHackcampがコーディネートして集めた大学生の合計約30人がアイデア出しに臨みました。

「彼氏が好きすぎて起業し、アプリをつくった」というらんらんさんは、大企業・団体で働く人にとっては「異文化」といってもいいかもしれません。その講演は、新規事業開発担当の参加者にどのような印象を与えたのでしょうか?「当初は、ベンチャー企業の経営者でもあり、年代も若いらんらんさんに、サラリーマンである私たちの話が通じるのか不安でした」と平井さんは率直に語ります。

けれど、講演が進むほどに話に引き込まれていったという平井さんが、特に示唆を得たのは「考えたアイデアは、おとうさんにまずぶつける」というらんらんさんの反応テストだったそうです。父親が「イマイチではないか?」と反応したアイデアの方を大切に掘り下げていくエピソードを聞き、「批判される案にこそ可能性を見出す視点は新鮮でした。これは私たちにはなかった。ラボは、こうした柔軟な視点、気づきを提供できる場所でありたい」と、らんらんさんの講演を高く評価していました。

4.頭を絞り尽くした「ブレインライティング」

第1日目のアイデア出しは、「マンダラート(自分ごと化して考える)」「ブレインライティング(沈黙のブレスト。紙にアイデアを書き込み、チームで回して大量のアイデアを出す)」「アイデアスケッチ(いいアイデアをシンプルにまとめ、誰でもみてわかる形で表現)」「体験スケッチボード(ターゲットの体験を詳細設計)」の4つのワークを実施しました。中でもサービスデベロップメントチームのメンバーの印象に残ったのが「ブレインライティング」でした。「ラボのメンバーは日々電力データのことを考えているので、これ以上何か出てくるだろうか、という気持ちになった」(福永さん)「乾いたぞうきんを絞り出すようにして、さらにアイデアを出すのはかなり苦しかった」(高倉さん)、とメンバーは振り返ります。

ただ、制限時間の最後の方に「評価してもらえそうなアイデアを書こうと思わず、自由になんでも書いてやれという状態で書いたアイデアの方が評判が良かった」という高倉さんの言葉に、メンバーの多くが同意しました。当日各チームのサポート役を担ったメンバー向けに、HackcampとGDBLメンバーとで事前のリハーサルを実施したことも助けとなりました。「アイデア出しの仕掛けについて腹落ちした上で挑めたので、本番しっかり集中しサポート役としてチームを支えられた」と、長田さんはリハーサル・本番を通して感じたと言います。

さらに、社内だけ・企業人だけではなく、大学生をアサインしたチーム構成もアイデア出しの活性化に役立ちました。実は、リハーサルですでにこのプロセスを体験していたメンバーは「本番ではいいアイデアがでないかも」と懸念していたそうです。

その懸念は、大学生たちの参加によって吹き飛びました。「感性に従い、自分のほしいもの・やりたいことを追求する大学生たちのアイデアを読んだ後は、自分のアイデアも膨らみました」という高倉さんの感想に、GDBLのメンバーはうなずいていました。アイデア出しにおいて、Hackcampでは異質な存在=ダイバーシティの重要性を認識し、さまざまな属性のゲストとのコーディネートを提案しています。

5.化学反応生み出す場に

今回、Hackcampがお手伝いした時間は、今後のGDBLにとってどのような価値を持ったのでしょうか? アイデアソンそのものについて、会員企業・団体からの参加者は、普段使わない脳に汗をかき、楽しんでいる姿が目立ちましたが「まだ慣れていない人もいましたね」と平井さんは観察していました。ただ、そのことを否定的には受け止めていません。「逆に、その違和感を感じてもらうことも今回のような場の価値だと思うのです。例えば、自分とは考え方が異なる大学生の意見に触れて戸惑い・違和感があったとしても『それはなぜなのか』と、参加者に気づく場を提供する。そういうことをやらないと頭は柔らかくなりませんから」と平井さんは強調しました。

さらに平井さんは「私たちは、ゼロから事業をつくったことがありません。入社した時から既存事業がありましたから」と自身を含む大企業の担当者の立場を理解しながらも「だからこそ、このラボを試行錯誤、チャレンジの場として広く使ってもらえるようにしていきたい」とラボのミッションを繰り返しました。心がけるのは「停滞しないこと、新しいことにチャレンジし続けること。これからは企業だけでなく自治体や大学など、新しい化学反応を生み出せるように動きたい」と次に照準を合わせています。

ラボ創立時から運営に関わる田端さんも、アイデアソンでらんらんさんが話した内容に関連し「ラボという仕組みにこだわらずに、まず自分個人として『そのサービスを使うだろうか』と自問することを忘れずにいたい」と話します。そして「ここがもう1つの大企業にならないように、ラボで働く一人一人の感性を大切にしたい」と、改めてインキュベーションサポートに臨む姿勢を確認していました。

これからGDBLは「データと人とアイデアとやる気」(平井さん)を持ち寄り、まず会員企業・団体と進めているユースケースを開発していくことを優先して事業を展開し、さらに国に対して次世代の電力データ利用に提言を重ねていく予定です。

目的

  • スマートメーターにより得られる「電力データ」を基盤に、約80の会員の持つデータやアイデアを掛け合わせ、新たなビジネスを創造

課題

  • 電力データと異業種データをかけあわせて、新しいビジネスの創造につながる種を生み出すため、1年目はアイデア創発と具体的なユースケースを検討したい

効果

  • アイデアソン企画の具体化の前に、まずラボ側に『視覚会議』メソッドを使って合意形成を促した。その結果、アイデアソンイベントのテーマを「思わず自分の電力データを提供したくなるサービスや仕掛けとは?」と設定した。社内だけ・企業人だけではなく、大学生をアサインしたチーム構成により、各々の感性に従った多種多様なアイデアが飛び交い、新しい化学反応を生み出すきっかけとなった。

導入の決め手

  • 会員企業・団体とともに新しいサービスづくりの一歩を踏み出す際に、アイデアを広げる手法が豊富な企業を探し、ラボで推進していたインキュベーションサポートのフレームに思想が近かったから。

時期

2019年7月

参加人数

30名程度/5チーム

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