企業が抱える課題は一つとは限りません。時に、見えていなかった課題が表面にあらわれてたり、思いもよらなかった解決策が見つかることも。今回、株式会社HYPER CUBEとの取り組みで複数のワークショップと振り返りを行っていくなかで、「社員の自律自走や自主性を推し進めるためには、会社のミッションとバリューを作り直すべきではないか」という真の課題が浮き彫りになりました。
その結果、社員全員で意見を出し合い、生み出したミッション・バリューが完成。期間にして約8か月の振り返りと現在の様子を代表取締役の大林さん、そしてプロジェクトの事務局のメンバーに尋ねました。
株式会社HYPER CUBE 代表取締役 大林 謙 さん
プロジェクト事務局スタッフ
HYPER CUBEは、”遊びが予防になる社会をつくる”をビジョンに掲げ、高齢者のQOL向上を目的とした介護業界向けサービス及びAI開発を行っている会社です。常に”楽しむこと”を大切にしながら、さまざまなサービスを開発しています。
昨年(2023年)頃から経営層が課題だと感じていたのは、「会社のビジョンは社員に概ね共感されているが、仕事に反映できていないのではないか」、そして「社員の自律自走・自主性をより高めていきたい」という二点でした。
じつは、代表取締役の大林さんは以前からHackCampと交流があり、自らも視覚会議に参加したことがあります。その際、合意形成のための仕組みを実感し、そのプロセスを評価していたため、「課題解決に向けて伴走を頼むならHackCampさんにお願いしたい」とプロジェクトが走り始めました。
まずは今回のプロジェクトの根幹となる講義を行い、2つのワークショップに取り組みました。その際に出てきた意見をまとめ、さらに経営層、事務局内とで対話を重ねていくなかで、徐々にHYPER CUBEが抱えている真の課題が浮き彫りに。
「最初から感じていたように、ビジョンに関しては、共感して入社してくるスタッフもいるように社員に定着していることは間違いなさそうです。しかし、ミッションとバリューに関しては、創業時に定めたものであり、社員へあまり周知されておらず、行動指針になっていないことが再認識できました」(大林さん)
通常、このような場合はミッションとバリューを浸透させる術を模索することが多いもの。しかし今回は、ワークショップであがってきた社員の意見を踏襲した結果、ミッションとバリューを新しく作り直すことに決定しました。そうすることで、社員の自律自走や自主性を推し進めよう、という展開になったのです。
今回実施したワークショップは、下記の通り。ひとつ行うごとにHackCampと事務局メンバーで振り返りをし、大林さんを含めてアセスメントの振り返りも適宜行いながら、次に行うワークショップの展開を決めていきました。
いずれのワークショップも初めての参加だったという事務局のメンバーにどれが印象的だったかを尋ねると、さまざまな感想が寄せられました。
「3つのグループにわかれて行った、フューチャーコンセプトのことをよく覚えています。この会社で仕事をしていくなかで、何を大切にしたくて、そのために何がいま足りていないのかといったことを付箋に書き込んで貼っていきました。
HYPER CUBEは『遊び』というワードをビジョンに入れている会社で、そこに惹かれて自分も入社したんですが、『遊び』を掲げているわりに遊べていないなとモヤモヤしていた部分があったんですよ。それが、他のメンバーも同じ想いだったことに気づけたのは、すごく良かったです。しかも、ワークショップで各々が出すアイデアや言葉がすごく面白くて。普段の会話からは気づけなかった、周りのスタッフの遊び心が感じられて楽しかったです」
「その点では、私たちのチームは真面目な意見が多かったかもしれないです。いいなという意見はたくさん出てきたんですが、もう少し盛り上げられたら良かったというのが反省点です」
「QFTがすごく面白かったです。グループでのディスカッションを通して、そんな視点があるのか!という自分一人では思いつかなかったような意見を聞くことができました。会社のミッションとかバリューに言及するイメージがなかった人が積極的に発言するなど、普段見られない姿を垣間見ることができたことは驚きでしたね」(以上、事務局スタッフ)
一方、これまでにビジネス系のワークショップに多数参加したことがある大林さんとしても、今回のHackCampとの取り組みは気づきが多かったようです。
「これまではワークフローを体験することが目的で、最終のゴールまでたどり着けなかったものが多かったのですが、今回は途中で設定した『HYPER CUBEの新しいミッション・バリューを社員全員でつくる』という目的のもと、そこに到達するためのプロセスを踏むワークショップだったので、まったく意味合いが違いました。
以前から、参加者全員の合意形成ができる視覚会議に大きな魅力を感じていたので、今回オンラインではなくリアルな場で、社員全員が参加して視覚会議を行えた点が非常に良かったです。一人ひとりが会社に何を求めているのかを知ることができました。また、新たな才能の発見などもありました。1on1など個別で話す機会はありますが、何かテーマを決め、それに対して一人ずつ意見を出していく全体のコミュニケーションも必要ですね。意識的にそのような場を設けていこうと思います」(大林さん)
各自納得の行くプロセスで、社員全員の合意のもとに作り上げられた、新しいミッション・バリュー。満足度としては何点くらいでしょうか? 反省点も踏まえて聞いてみました。
■代表取締役・大林さん
「100点です。会社のスタッフたちが一生懸命考えてくれたものなので、とても満足しています。私だけでは絶対に生まれてこなかった言葉や言い回しになっていて、うちの社風にピッタリのHYPER CUBEらしいものが出来上がりました。
成果物としては満点ですが、一方でプロセスに関してはもう少し工夫できた部分もあったかなと思っています。たとえば、そもそも『なぜミッション・バリューが必要なのか?』という根本のところをもう少し社内で浸透させてからスタートできたら良かったかな、とか。年代によって、ミッション・ビジョン・バリューに対する想いや価値観の違いがあるので、そのあたりを事前に同じ認識に至るまで準備できたら、さらにディスカッションがスムーズだったかもしれません。
私自身、今回の取り組みを通して、社員一人ひとりとのコミュニケーションが足りていなかったと再認識したので、次のステップに活かしていきたいと思います」
■事務局スタッフ
「85点でしょうか。とても良いものができたと満足していますが、100%理想通りのものになったとも言えないと思っているので、その反省点を含めて85点です。
まず、ミッション・バリューを決めるという目的に対して、全員が腹落ちし、納得してスタートできていたわけではなかったという点。ともすると、人によってはトップが『ミッション・バリューを決める』と言ったからやらされている、言われるがまま取り組んで形骸化してしまう恐れもあったので、社員全体への発信の仕方にはすごく気を遣いました。最終的には事務局で話し合って決定しましたが、ワークショップで出てきた全員の意見を盛り込んでいることを都度共有するようにしました。
それから、じつはこのミッション・バリューは一体誰向けのものなのか?という点で、もしかすると上の人たちと私たち事務局とで少し認識の違いがあったかもしれません。自分たちの行動指針やモチベーションになるような言葉を置くのか、対外的に外の人に対して発信するための言葉なのか。そこがハッキリ定められていなかったが故のすれ違いが起こっていたので、もう少し早い段階で認識を揃えていけたら良かったと思います。
HackCampさんのプログラムはどのワークショップもとても面白かったですし、満足しています。欲を言えば、それだけで終わるのではなくて、自分たちなりに必要だと思うものを企画してトライすることもできたのかな。そういう意味では、事務局の運営としても、反省の意味を込めて85点です。メンバー構成はすごくバランスが良かったと思っています。次はぜひ、新しいメンバーにも加わってほしいですね」
一連のワークショップを終えて約二か月、現在の社内の様子を事務局のメンバーに尋ねると、いくつかの変化が挙がってきました。
「『play』というHYPER CUBEが運営しているブログがあります。今までは、執筆してもらう人を事務局側で指名して、指名された側は正直イヤイヤ書く……といった感じだったと思うんですが、この『play』こそ、うまく利用すればミッション・ビジョン・バリューの浸透に繋がるんじゃないかと思っていて。
目的や目標を整理して再度設定し、依頼や公開のフローも見直して、バリューにある『遊び心』に絡めること。『play』を自分なりの遊び心をアウトプットする場として活用すれば、常にバリューを意識する癖づけになりますし、社外にも『HYPER CUBEにはこんな面白そうなやつがいるぞ』と伝わるんじゃないでしょうか。現在、絶賛更新中です」
「自分自身も社内メンバーと遊びに行ったことをブログ記事に書いたり、シェアオフィスなので社外の人たちとボードゲームをして”遊んだ”ことなどをSlackでさらっと伝えたりと、意識的に『遊び心を大事にしてますよ』と発信するようになりました。少しでも私たちのバリューに気づいてもらえるといいなと思っています」
「社内のミーティングなどで、『遊び心』について議題に上がるようになったことは、すごく大きな変化だと思っています。これまでのミーティングではなかったことなので。少しずつですが、社員の間にミッション・バリューが浸透していることを実感しているところです」
大林さんも同様の変化を感じていつつも、今後さらなるミッション・ビジョン・バリューの浸透をはかろうと目論んでいます。
「まずはバリューの浸透ですね。パソコンのデスクトップに貼るとか、全員で暗唱するとか、そういうことはやりたくない。6つ全部じゃなくていいから、意識して日々の業務に活かしながら、事業的に社会実装していくこと。同時に、社員が働きやすい環境を作っていければと思っています。
今回HackCampさんと一緒に、社員全員を巻き込んだ取り組みができたことは本当に大きな成果でした。スタート時はどんな成果があがってくるのか正直不安でしたが、HackCampさんの施策の良さとうちのスタッフの頑張りが相まって、素晴らしいミッション・バリューが誕生したと思っています。
時代によってバリューやミッションは多少変わってしかるべきだと思っているので、その際はまたご協力いただきたいです」
忖度なしの本音を交えながら、今回の取り組みを振り返ってくれた大林さん、そして事務局スタッフの面々。試行錯誤しながらも、長い時間をかけて全員で生み出した新しいミッション・バリューは、今後HYPER CUBEという会社をさらに大きく飛躍させてくれることでしょう。今後も「遊び心」に溢れたビジネスの創出を期待しています。