ハードウェアやソフトウェア、生産管理PKGの開発、製造、販売を行っているJBアドバンスト・テクノロジー(以下、JBAT)。社内で「会社としての具体的なミッション・バリュー・ビジョンを作ろう」という企画が立ち上がった際、プロジェクトの推進に一役買ったのが視覚会議でした。
視覚会議とは、答えがない課題や未知のテーマに対して、“あるべき姿/ありたい姿”を全員で合意形成するための会議手法のこと。わずか50分で成果へと導くアプローチ法とあって、さまざまな企業が注目しています。
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普通の会議と視覚会議は何が違う?―参加者全員納得の答えが50分で出るまで―
きっかけは、先進技術研究所に所属する新居田晃史さんが、知人に誘われてHackCamp主催のハッカソンのイベントに参加したことに遡ります。その後、視覚会議ファシリテーター養成講座を受講、「いつかJBATの中でこのアプローチ法を活かしたい」と強い希望を抱いていたところ、ついにチャンスが訪れたのです。
「じつは、以前にも自己流で視覚会議っぽいことをして、社内の会議を進めたことがありましたが、いまひとつスムーズに進められなかった。そのときの反省点から養成講座に参加した経緯があり、今度はその成果を出すべくチャレンジしたいと、ファシリテーターに名乗り出ました」(新居田さん)
どうまず行ったのは、視覚会議による合意形成です。社内から選出された12名が参加。「JBATが子ども世代に向けて果たすべき使命のあるべき姿とは?」をテーマに、各々が思うキーワードをいくつか挙げていき、そのキーワードを使ってひとつの文章を作っていきました。
「メンバーから出てきたのは、『新しい技術』『仲間』『情熱』といったワードでした。このイメージの洗い出しによって、初回の会議でありながら7~8割は参加者が同じ方向を見ることができたと確信できました。しっかりと合意形成ができ、ブレない軸ができた感じです。しかも、12名全員が年齢や役職を問わず自分の意見を主張し、自分事として熱量の高いディスカッションができた。このことが一番うれしく、また、驚きでもありましたね」(新居田さん)
じつは、それまでの社内の会議を振り返ると、声の大きな数人が中心になって話し合いが進んでいき、参加者の半数以上はただ聞いているだけ。どこか他人任せな話し合いで決議がなされていくことが珍しくなく、新居田さんは大きな課題感を持っていました。
「その点、今回行った視覚会議は、参加者全員が意見を持ち、その意見が採用されることで、さらに積極的に議論に参加できました。しかも、私自身のファシリテーターとしてのスキルも必要なく、HackCampさんに教えてもらった視覚会議のプロセスに沿って進めていくだけで、自然に意見がまとまっていくのです。感動の成功体験でした」(新居田さん)
大成功だった初回ミーティングを終え、その後は2週間に1度のペースで話し合いを重ねていった新居田さん。バックキャスティング手法を用いながら順調にビジョン形成のゴールへと進んでいったように見えましたが、とある壁にぶつかります。
「視覚会議で上がってくるワードは抽象的なので、その後いかに言語化していくかがカギとなります。ゴールとなるWHYやWHATが同じでも、どうやって進めていくかというHOWの部分は人それぞれ。ざっくりとしたイメージを突き詰めていくと、各々微妙に描いているものが違っていたのです。そのため、だんだんと特定の人からしか発言が出てこなくなり、会議全体が少し停滞気味に。意見がまとまらない回も出てきました。目の前の議論に夢中になるがあまり、最初に抱いた『ありたい姿』を見失っていたのかもしれません」(新居田さん)
バラバラになった各々の意思を再確認するためには、もう一度視覚会議を行うべきかもしれない。でも、うまくいかなかったら……そんな悩みを抱えていた新居田さんに、あるメンバーから、「もう一度視覚会議をやってみませんか」という提案がありました。
ここが、今回のビジョン策定における最大のターニングポイントです。
コロナ禍ということもあり、オンラインでミーティングを行っていましたが、2度目の視覚会議に関しては会議室にメンバー全員が集まり、オフラインで決行。普段とは違った雰囲気で行ったことも功を奏したのかもしれません。今一度、参加者全員が「ありたい姿/あるべき姿」を意識することができ、ディスカッションは大変盛り上がりました。
「2度目の視覚会議を経て、バラバラになりかけていた思考がまとまり、深まり、確固たるゴールに向かって全員で進んでいけるように。結果、弊社HPに掲げている『JBAT VISION』が形になるという大きな成果が得られました。今回参加したメンバーからは、揃って良い感想が聞けましたし、皆が『正解のない過程』を楽しみながら進められたと肌で感じることができましたね」(新居田さん)
企業も個人も日々進化しているなかで、ゴールとするありたい姿も進化したり、解像度が上がったりするのは当然です。チームメンバーの入れ替わりも発生します。そもそも、プロジェクトをスムーズに進めるにあたって合意すべき項目は複数あると考えています。
たとえば、プロジェクトのゴールやビジョン、進め方、クライテリアやメンバー選定やチームのあり方……といった具合です。そのため、必要に応じて視覚会議を複数回行うことを推奨しています。
とはいえ、視覚会議を1回実施して満足してしまうケースは少なくありません。今回、2度に渡って視覚会議を行った新居田さんのプロセスは、他の企業や組織にとっても参考になるのではないでしょうか。
視覚会議やバックキャスティングの活用は、どんな企業や組織でも成果が出る、実践者いわく”魔法の手法”です。ただ、どのように社内に持ち込むかという導入のきっかけが、意外に難しいもの。
「今回私のチャレンジが成功した理由を振り返ってみると、導入前の動きにいくつかポイントがあったように思います。ひとつは、既存の業務ではなく、会社のビジョン形成という新しいタスクだったため、進行の仕方から自由にやらせてもらえたこと。また、毎月行われている社長との面談で、視覚会議やファシリテーター養成講座の話を定期的に伝えていました。少しずつ社長へのインプットを試みていたことが、スムーズな導入へのカギだったのだと思います」(新居田さん)
さらには、HackCampとパートナーシップを組み、逐一進め方を相談していたことが何よりの勝因だったと新居田さんは笑顔で語ります。
「迷ったり疑問が生じたりしたら、都度コミュニケーションツールで相談していました。すぐにレスポンスがあるスピード感、しかも質問したこと以上のアドバイスと解決策を提示してもらえるので、今では欠かせない最高のパートナーだと思っています」(新居田さん)
今回の体験で、参加者12名の意識が大きく変革しました。まずは第一ステップ成功、ここからが本番です。
今後の狙いは、形成したビジョンを社内で浸透させていくこと、そして他の社員にも視覚会議を通じた成功体験を拡大していくこと。新居田さん自身のスキルを高めていくと同時に、ファシリテーターを務められる人を育てていくことも、大きな課題です。
「少し時間はかかるかもしれませんが、仲間が増えればその分、企業の成長スピードも加速するはず。社内からのフィードバックも欲しいですし、いろいろと試してみたい手法もあります。
課題はまだまだありますので、今後も視覚会議をはじめとした共創メソッド活用・定着サポートを延長し、HackCampさんに伴走をお願いする予定です。心強い味方がすぐ側にいることで、私たちも安心してプロジェクトを進めていくことができます。夢が広がりますね」(新居田さん)
より多くの人が体験をし、いずれは通常業務でも視覚会議をツールとして利用していければと語る新居田さん。より高い地点を目指して、JBATはこれからも走り続けて行きます。
2020年6月~
社員12名