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スペキュラティブデザインによる次世代リーダー育成
SOLIZE株式会社 様

アーティストとともに「問題提起する次世代エンジニア像」を探る冒険へ

SOLIZE株式会社様 ZIONプロジェクト事例レポート

3D CAD設計解析・モデルベース開発(MBD)・3Dプリンティングと、製品開発における変革推進コンサルティング領域で事業を展開する SOLIZE株式会社(宮藤康聡・代表取締役社長CEO)とエンジニア派遣・受託開発を手がけるSOLIZE Engineering株式会社((鈴木貴人・代表取締役社長)=社名・肩書きは2020年3月当時。同社は2021年1月1日にSOLIZE株式会社に統合)は、2020年3月から8月までの約5カ月にわたり、次世代エンジニア像を若手社員みずからが探求する「ZIONプロジェクト」を実施しました。

コロナ禍まっただ中にフルオンラインで実施したこのプロジェクトは、スペキュラティブ(問題提起型)デザインを提唱し、アーティストとしても活躍する長谷川愛さんをメイン講師・プログラムディレクターに迎え「正解のない時代」のエンジニアのあるべき姿を探索し、アウトプットを共につくるプロジェクト型研修の試みです。

鈴木社長みずからが「ダークサイドを恐れるな」と参加社員を激励した本プロジェクトと、このプロジェクトで果たしたHackCampの役割を紹介します。

ZIONプロジェクトとは何か

ZIONプロジェクトは、2020年4月から9月までの約5カ月にわたって行われました。対象は20代から30代のエンジニア・プロダクトデザイナーです。月に1回の全体ワークショップと成果発表会、アーティスト長谷川愛さんによるメンタリング、そのほかに進捗を事務局と共有する1オン1ミーティングは今回、COVID-19の影響ですべてオンラインで実施することになりました。

参加したのは、SOLIZE Engineering株式会社に在籍する若手エンジニア・プロダクトデザイナーたち。長谷川愛さん推薦のSFドラマ「Black Mirror」(Netflix)シリーズを事前にそれぞれが視聴するところからプログラムはスタートしました。急速に進化するテクノロジーが必ずしも幸福な未来を創ることにつながらない物語をインプットしたうえで始まったZIONプロジェクトのゴールについて、鈴木社長は「エンジニアやエンジニアリングのあり方・未来を見据え、その進化した形を自由に考えてもらいたかった」と説明しました。

そして、初回・5月のインプットトークでは、やや過激な言葉でプロジェクトに参加した若手エンジニアたちを激励します。「人間にはさまざまな欲望がある。その闇、ダークサイドに堕ちることを恐れないでほしい。このプログラムのなかでは『正解のため』『誰かのために』ではなくまず『自分のため』を大切に、自分の欲望を直視してほしい」。同席したアーティストの長谷川愛さんも「大企業の経営者として大変ユニーク」と驚いたこの言葉を、なぜ鈴木社長は社員に贈ったのでしょうか?

解くべき問いを発見することが価値

SOLIZEグループはそのウェブサイトで「エンジニアリング」こそが同社を束ねるキーワードだと明記しています。一方でZIONプロジェクトを始めるにあたって宮藤社長、鈴木社長はともにHackCampとのディスカッションで「人工知能(AI)の時代を迎え、エンジニアリングとエンジニアそのものも再定義が必要になっている」という認識を示しました。

産業革命・インターネットによる情報革命を通じて、生産活動を自動化し、大量生産を実現して世の中の「利便性」を高める貢献をすることがこれまでのエンジニアリングの価値でした。
しかし、人工知能による「革命」の時期を迎えた今、その一番の強みであった『再現性を高める活動』はAIに任せることが可能になりつつあります。

そうした時代に、モジュール単位の「部分最適」な問題解決を主眼としがちな現代のエンジニアはどの方向に変化していくべきなのか。テクノロジーの進化は、エンジニア像そのものを刷新することを企業に迫っています。
また、世界は多様に、ますます複雑な問題を投げかけています。COVID-19の蔓延においても、プライバシーと公衆衛生、感染予防と経済対策など、倫理と利益が背反し、多様な価値観がぶつかって葛藤する状況が頻発しています。正解が容易にわからなくなった世界で、エンジニアの役割も問われています。

HackCampは、SOLIZE社とのディスカッションの中で「エンジニアは、問題解決する存在から『問題提起ができる別の存在』に進化・革新していくことで、未来につながる新しい価値を提示できる」という方向性を示しました。

その方向性を力強く引っ張るツールとしてHackCampは「スペキュラティブ(問題提起型)デザイン」というアイデアを出し、アーティストとのコラボレーションを提案しました。プロジェクトリーダーとなった矢吹博和は「論理で動くエンジニアに、欲望や好奇心・自身の哲学に従うアーティストが出会った先にある、新しい何か(役割、スタイル等)を追求したい」と、「ALT-BIAS GUN」「私はイルカを産みたい」などテクノロジーを使った批評的なアート作品を発表し続けている長谷川愛さんに今回のプログラムディレクターを依頼。エンジニアリング企業×アーティストのコラボレーションでプロジェクトを進めていることが決まりました。

問題「解決」ではなく、解くべき問題を「発見・提起」する「スペキュラティブデザイン」を軸にしたアート/アーティストの役割を低床している長谷川愛さん

「How」を担ったHackCampの伴走

HackCampが今回、ZIONプロジェクトで果たした役割は①コンセプトメイキング支援②人的ネットワークの提供③動画教材制作④全体プログラム設計⑤オンラインコミュニケーションサポートーの5つです。

①コンセプトメイキング支援

前述した通り、経営陣や担当者と「ゴール設定」や実現したい未来・人材像から変化する社会や倫理・哲学の話まで、幅広い視点からディスカッションやヒアリングを重ねて練り上げていきます。「何を実現するためにこのプロジェクトを実施するのか」という軸を定め、チームメンバーで共有するため、コンセプト作りの段階で視覚会議※を実施することもあります。

②人的ネットワークの提供

HackCampの強みは、さまざまな「イノベーション」に挑戦している多分野の人材とつながっていること。アカデミア・アーティスト・経営者・エンジニア・省庁/自治体関係者・各地の市民団体など、ゴール実現に向けて知見を提供してくれる最適な人をクライアントにつなぎます。
今回、プログラムディレクターを依頼した長谷川愛さんは、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表し続けているアーティストです。

2020年1月には「MITメディアラボと東京大学で教えた授業をもとに、SDGsや倫理問題をふまえて社会変革に挑むための思索トレーニングブック」として「20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業」(ビー・エヌ・エヌ新社刊)を著しました。
学生向け授業として実施していたプログラムを今回、企業向けにアレンジ。「未知の世界をリサーチし、好奇心が動いた点をフックにプロトタイプをつくる」手法とアイディエーションカードを用いて「ものごとの根本からクリティカルに問い直す力」を育んでいきました。

また、事業創造とエンジニアリングの双方の分野に深い知見を持つ神戸情報大学院大学客員教授株式会社IF 代表取締役の小塩篤史さんを、第1回・キックオフにアサイン。小塩さんは「遊び・アート・余白」ある場での出会いや対話が「前提を疑う視点」を醸成することを、事例を交えて紹介しました。

③動画教材の制作

企業クライアントである場合、効率的なインプットに動画教材は欠かせません。参加したエンジニアに、なじみのない分野と価値観を理解してもらうために「好きな時間に何度でも見られる」動画教材は適しています。
さらに今回は、COVID-19の影響でリアルで伝えることができない状況下でのプロジェクト実施だっただけに、緊急事態宣言直前の2020年3月の段階で「オンライン講義教材」制作を計画したことはとても重要でした。

HackCampでは「スペキュラティブ・デザインについて」「バイオアートについて」「倫理について」「SFのつくりかた」など長谷川さんを講師とする6本の教材動画をスピーディーに制作しました。
この動画は、今後、スペキュラティブデザインを使った人材育成やアート思考を活用した組織変革プログラムに関心ある他企業でも教材として使っていく予定です。

教材動画では「テクノロジーとアート」「倫理」などについて講義が展開されました。
スペキュラティブデザインについて学ぶ教材動画の一部

④全体プログラム設計〜未知の事象に分け入り、問題を提起

HackCampでは、視覚会議等を活用して「超上流部分」の「なぜやるのか」「なにをやるのか」について、チームメンバーで合意する段階を支援することが多いのですが、今回の「ZIONプロジェクト」ではそれらに加え、長谷川愛さんをディレクターに据え、フルオンラインのスペキュラティブデザインワークショップ・参加メンバーが個人として取り組むリサーチ&プロトタイプ制作・成果発表まで、「未知の事象を調べ、自分ごととして考え抜く」ための5回のワークを設定しました。

まず、プロジェクトスタートの課題として、メンバーはNetflixの近未来SFシリーズ「BlackMirror」と映画「ガタカ」を視聴しました。問題提起力を醸成する際に重要な「サイエンス・フィクション」的視点に触れてもらうことが目的です。
利便性・効率性を高める仕組みが人間を抑圧する存在になること・善悪の境界線が曖昧になる世界についてのイメージなど、倫理的な課題のありかをこの動画シリーズを「インプット」として活用しその後のワークショップにつなげました。

谷川愛さんが考案・作成した「20XX年の革命家!ツールキット」。アートやデザイン教育を受けていない人を対象として、未来を拡張するアイデアを出すためのカードです=https://aihasegawa.info/ より転載=

初回に行われた「スペキュラティブデザインワークショップ」は、長谷川さんの著作に付いている「アイディエーションカード」を使い、参加者が課題を発見し、対話を通してそれぞれがとらえている「世界」を伝え合う場となりました。①テクノロジーカード②フィロソフィーカード(哲学・思想)③アウトプットカード④革命家カードの4種類126枚を使ってアイデアを創造していく過程は「ふだんの業務では全く関わりのない脳を使った」と、参加者にとってかなりの刺激となった様子でした。

https://aihasegawa.info/revolutionary-2030-2030

⑤メンバーサポート〜「1対1」の対話時間を充実

2020年3月に企画した当初は、東京都現代美術館で「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」をチームで実際に見てダイアログを行うなど、オフラインアート鑑賞を組み込んだプログラムを予定していましたが、COVID-19の影響で、すべてオンラインでの開催となってしまいました。

度重なる変更がありましたが、SOLIZE社・HackCampともに当初の「課題の発見と可視化、そして問題提起ができる次世代のエンジニアを探索する」というプロジェクトの「軸」を共有していたため、柔軟にワークを組み替えることができました。もちろん「当初の計画通りにはいかない」という状況にたいして対応できたのは、SOLIZE社のサポート事務局がしっかりと参加社員の状況・気持ちを把握していたからにほかなりません。半年近い長期プロジェクトにおいては「参加メンバーを孤独にしない」ため、社内体制整備が重要であることが改めて浮き彫りになりました。

在宅勤務ながら様々な本業のプロジェクトで忙しい参加メンバーたちが取り組んだのは「未知の国の課題をリサーチし、その解決のためのサービス・プロダクトのプロトタイプをつくる」という課題です。

担当する国は、長谷川さんが「無茶振り」で決めたもの。「ネット上のリサーチに加えてSNSづてにその国の人と連絡を取りインタビューする」「オンライン旅行プログラムに申し込み、そのガイドにインタビューする」「英会話のオンラインレッスンで担当国出身の講師を選んでヒアリングする」など、さまざまな工夫をこらして、プロジェクトメンバーは現地の「生の声」をリサーチしました。

ただし、リサーチからアイデアを膨らませて「サービスプラン」のプロトタイプをつくる『飛躍」のところで、多くのメンバーは苦労したようです。中間発表時、長谷川さんからジェンダーや生命倫理・プライバシーなどセンシティブな視点から制作者に問いかけるコメントが次々と繰り出され「(それは)普通ですねー」「もうひとひねりほしいですね」と優しく叱咤激励される場面が相次ぎました。

こうした「頭を悩ます場面」で、HackCampは今回「1on1」のサポート時間を取りました。1人で悶々と悩むよりも「人に話す」「聞いてもらう」ことで、自分が最も焦点を当てたいポイントが明らかになってくることがあります。今回は1人あたり、計4回(事務局2回・長谷川愛さん2回)の個別ミーティングの時間を確保し、制作コンセプトを確認したり、相似事例についてディスカッションしたりしながら、プロトタイプの方向性を整理しました。プロジェクト終了後に「自分1人だけでは外せないブレーキが、対話のなかで解除され、つくることに集中できるようになった」という感想が出るなど、アーティストとの「壁打ちの時間」の価値は非常に大きかったようでした。

成果発表会では、成果物プレゼンテーションのほかにオンラインホワイトボード「Mural」を使った振り返りなどを企画・実施しました。参加者とHackCampが顔をまったく合わせない長期プロジェクトとなりましたが「この企画があったら、ぜひ同僚たちに勧めたいですか」との質問に全員が「勧める」と回答するなど、学びと刺激は大変に大きかったようでした。

エンジニア個人の妄想・夢想から変わりうる世界

今回のZIONプロジェクトについて、SOLIZE株式会社 代表取締役社長CEO・宮藤康聡さんは「日常から革命的なことまで、あらゆる物事が変わるきっかけは『妄想』です。世界はみなさんの妄想を待っています」と、アート思考を活用してさらに自由に問題を発見し、妄想する力をプロジェクトメンバーに期待しています。

また、同社執行役員(デザインエンジニアリング担当)鈴木貴人さんは「このプロジェクトには正解はありません。プロセスを通じて”彼らの問題”から”私たちの問題”にシフトして課題に向き合っている変容がうかがえました」と手応えを感じた様子。さらに「このプロジェクトはスタートポイント。正解がない世界で面白く新しいエンジニア像を追求していくきっかけにしてほしい」と話しています。

本格的な企業とのコラボレーションプロジェクトに取り組んだアーティストの長谷川愛さんは「アーティストは、理想を語る・妄想をかたちにする役割がありますが、エンジニアはリアルに働きかけるテクノロジー・技術を持っています。そんな技術者たちがさらに夢想する力を持てたら世界はもっと変わるのではないかと思います」と、プロジェクトを総括しました。

今後、SOLIZE社では次世代エンジニア像を探索する試みをゆるやかに持続していく方針で、その1つのプロジェクトとして同社内で「SF部」活動が始まっています。また、採用においてもアート思考を取り入れたこの「ZIONプロジェクト」のフレームワークが紹介され、人材育成の1つの軸として位置づけた取り組みがスタートしています。COVID-19の影響下で半年のプロジェクトをやり抜いたエンジニアたちが踏み出した一歩が、どのように世界を変えていくのか。今後が楽しみです。

目的

  • エンジニアやエンジニアリングのあり方や未来を見据え、その進化した形を自由に考える。

課題

  • 「正解のない時代」のエンジニアのあるべき姿を探索し、アウトプットを共につくるプロジェクト型研修の遂行。

効果

  • エンジニアリング企業×アーティストのコラボレーションでプロジェクトを進め、各自にテーマを割り当て課題解決や問題提起につながるアウトプットを個人で作り上げた。「未知の事象を調べ、自分ごととして考え抜く」ためのワークを実施し、プロジェクトの軸である「問題の発見と可視化、そして問題提起ができる次世代のエンジニアを探索する」きっかけとなるプロジェクトとなった。

導入の決め手

  • オンライン上でのワークショップが可能であったということと、新規事業を開発できる人材育成のため、アート思考を導入ための人的ネットワークがあったため。

時期

2020年4月〜8月

参加人数

10名程度

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