「共創を民主化する」をミッションに、HackCampは日々さまざまな組織の共創の場づくり・伴走をさせていただいています。
今回、Webサイトリニューアルを記念して、行政・市民・企業、さらに国も越境し、立場を超えて多様なステークホルダーと数多くの共創を行ってきたHackCamp代表 関と、1万人以上のアイディエーションや合意形成のワークショップを行ってきたHackCamp副代表 矢吹、共創のフロントランナーである二人のクロストークから「共に創る」を紐解きました。
下記、長文となりますが、全文書き起こしの記事になります。
宮島:代表の関はCode for Japanの代表、あるいはエンジニアとしてご存知の方も多いかと思いますが、実は「共創の民主化」ということをミッションに、対話でイノベーションを起こすHackCampの代表でもあります。そういった多様な立場を持っている関から、2014年の創業からのあゆみを踏まえ、「共創によってアップデートされる社会」をテーマにお話しさせていただきます。
関:まずは自己紹介をさせていただきます。私はHackCampの代表をやっているんですけれども、Code for Japanという組織も運営しておりまして、もともと長くGeorepublic Japanというシステム開発系の会社もやっています。それから昨年からはデジタル庁で働いて、いろいろな自治体のアドバイザーもやらせていただいています。 こういう話をすると「なんでこんなにたくさん組織をやっているの?」「どうやって運営しているの?」とよく言われますが、そこはやはり共創の力をうまく活用しているからこそ、たくさんの組織を運営できているのかなと思っています。
もともとこういうことを始めたいと思ったきっかけは、「sinsai.info(参照:shinsai.infoからの10年(関のnote)」というサイトが発端です。東日本大震災の時に、オープンソースのソフトウェアを使って、震災の情報をみんなで集めて共有するというサイトを立ち上げたんです。Twitterで仲間を募ったら一晩で200人〜300人もの人が集まって、みんなでこうやったほうがいい、ああやったほうがいいと議論しながらデータの入力やサイトの改善を進めるなど、自律的な組織としていろいろな人たちといろいろなことを一緒に進めていきました。この時に、私の中でまさに共創の原体験が生まれたわけです。
とはいえ、「作るのはいいけど、その技術って本当に人を幸せにするのか?」みたいな疑問は常に思っているところです。そもそも、作ったからといって必ずしも使ってほしい人に使われるわけではないということも感じていまして、どうやったら作ったものがちゃんといろいろな人に使われるかということを突き詰めていったところ、それにはやっぱり共創が必要だということに行き着きました。
コンセプトとしては、エリック・レイモンドがオープンソースコミュニティについて書いている『伽藍とバザール』というエッセイがありまして、これが私の考え方のヒントになっています。
伽藍モデルというのは、まさに中央集権です。イメージとしては大聖堂のようなもので、大聖堂は自分たちが好きなようには設計できないですし、人々が手を入れることができないですよね。逆にバザールモデルというのは、自律的な小集団が勝手に商売をやりながらどんどん場をよくしていくモデルで、変更を受け入れる余地があるわけです。その中に共通なルールみたいなものも生まれて、みんなが気持ちよく活動ができるようになっているんです。
僕はその違いが重要だと思っています。これまでの行政システムや仕組みは中央集権型の伽藍モデルで作られてきましたが、それって変化に弱いんですよね。誰か1人の管理者が組織を設計して動くので、なかなか途中で状況が変わっても対応しにくいんです。大企業もだいたいそうだと思います。
また、1つの組織にノウハウが溜まってしまう傾向があり、それは例えば自治体ではベンダーロックインなどの問題につながっています。さらに、利用者側が手を出せないので、「こうしてほしいんだけどな」という市民の意見をなかなか取り入れていけないことが課題だと言われています。
なので、Code for Japanでは行政の仕組みにバザールモデルを適用できないか、HackCampでは共創の仕組みをもっと社会に適用できないかといったことで活動をしているわけです。
Code for Japanの活動の代表例としては、東京都のコロナ対策サイトがあります。これはオープンソースで作って、いろいろな人の力によって改善され、いろんな権利が広がっていったということがあります。
では、なぜ今HackCampで「共創の民主化」を掲げて活動をしているかというと、現代のような変化の激しい時代では、個人の能力が組織に生かされる必要があると思っているからです。バザールモデルのほうがいろいろな課題に柔軟に対応していけるし、個人のいろいろな思いの反映があってこそ、組織全体もよくなっていくと考えています。
共創をするために必要なことは3つあると思っています。1つは「共感できる旗を立てる」ということ。組織で言えばビジョン、ミッションみたいなものですよね。また「個人の成長と組織の成長を繋げる」といったこともやはり大事です。もう1つは「ともに考え、ともにつくる」という考え方です。この3つが揃うと、自律する組織が生まれていくのかなと思っています。
まず「共感できる旗を立てる」について。HackCampは「共創を民主化する」、Code for Japanは「ともに考え、ともにつくる」、Code for Japanの中の1つのプロジェクトであるMake our Cityでは「『わたし』主体のまちづくりを通じてウェルビーイングを実現する」ということをビジョンにしています。それぞれのビジョンを考える時には、ワークショップを行い、なるべく多くの人に参加してもらえるようにして、最終的にきちんと言語化するというところまで考えて、大切に設定しました。
「個人の成長と組織の成長を繋げる」ということにおいては、個人の成長が組織の成長とリンクしていかないと自律性は生まれないんです。組織の中で何か仕事をしたり時間を使うといった時に、その先に何か自分自身が成長するというモチベーションがないと、なかなか新しいことをやろうと思えないですよね。その環境を作るということが、とても経営者に求められているのではないかなと思っています。
下の図は、人間の知性の3つの段階を表すグラフです。「知性のレベル」といって、人間はいつでもこういう段階で成長していけるという考え方があります。
最初は「環境順応型知性」です。これはチームプレイヤー的な、忠実な部下ということです。それが次第に「自己主導型知性」に変わっていきます。これは課題設定ができるだとか、自分なりの考え方を持って、自律性が身についている人です。
その先の、学ぶことによって導くリーダーであり、自分の考え方はあるけれどもそれを他人に押し付けない、また常に自分の考え方をアップグレードして、相互依存環境を身につけられるといったような「自己変容型知性」を持った人が組織の中にたくさんいる状況がすごく大事なのかなと思っています。
HackCampでは、それを「ホーム」「成長フィールド」「型づくり」という3つのフィールドで表現しています。安心安全なホームがあるこそみんなが新しい領域に挑戦できて、そこから成長してさらに経験を積むことで、型が生まれていく。型があるから文化になって、さらに安心安全な環境が生まれていく。HackCampではこのサイクルをとても重視しています。
「ともに考え、ともにつくる」ということで、私が意識しているのは発信をすることです。noteなどで発信をして、共感されるものもあれば、あまり響かないものもありますけれども、こういったところからいろいろなフィードバックを得ることができて、それがインナーコミュニケーションにも役に立っています。外向けに発信をすることで、中の人にも「この人はこういうことを考えているんだ」ということが伝わっていきます。
それから、コミュニティ自体をオープンにしていくことも大切にしています。Code for JapanではSlackを使ったオープンコミュニティを設けていたり、行政向けの体験型セミナーなどを行っていますが、過程やプロセスを常にオープンにしていくということが共創には非常に役に立つなと実感しています。
私からは以上です。
宮島:それでは、ここからは副社長の矢吹博和から「いま、すべての組織・企業で共創が必要とされる理由」というテーマでお話しさせていただきます。
矢吹は主に創業時から企業の現場でワークショップやビジョン策定などに携わることが多く、さまざまな場面で苦い経験や失敗もいろいろとしてきましたが、そういった経験から見えているところをお話しさせていただきます。
矢吹:よろしくお願いいたします。我々のミッションが「共創を民主化する」ということで、私は企業や組織に対して共創の仕掛けを導入している立場なのですが、その観点で、なぜ企業や組織に共創が求められているのかを簡単にご説明したいと思います。
まず、なぜ企業に共創が求められるかということですが、我々は共創のパターンには3種類あると思っています。まずは「アイデア創発」です。集合知を使っていろいろなアイデアを作るということですね。そして、ありたい姿をメンバー間で合意形成したり、論点をすり合わせるといった「合意形成」の共創があります。それから、みんなでリサーチをしたり、仮説を作り合ったり、問いを作るといった「探究・探索」も1つの共創かと思います。
みなさんが共創といった場合に思い浮かぶのは、この中のどれに一番近いでしょうか。画面上のアンケートにお答えいただけますでしょうか。
ご回答ありがとうございます。結果はやはりアイデア創発が48%と一番多く、合意形成が2位、探究・探索は少ないですね。想定したとおりの答えになっています。多くの方がアイデア創発としての共創、新しいアイデアを作るためのものだと認識していらっしゃると思います。
また、事前アンケートでは、ほぼ7割の方が社外との共創を求めていて、社内での共創の必要性は3割ぐらいという結果をいただいています。オープンイノベーションという文脈で、何らかの価値創出をしたいというところで共創に期待をされているのではないかと思います。
今日は、なぜ企業に共創が必要なのかというところと、アイデア創発の共創はみなさんすでにイメージがあると思うので、それ以外の合意形成、探究・探索の共創についての企業での必要性についてお話をしていきたいと思っています。
まず、山口周さんの『ニュータイプの時代』という書籍の中で、これから活躍する人材の要件として、「正解を探すより、問題を探す人」「未来を予測するのではなく、未来を構想する人」ということが言われています。
これはどういうことかというと、問題解決をするためには、ありたい姿と現状のギャップから課題を探し、それに対する解決策を考えるのが普通ですが、多くの企業の場合はいきなり解決策、Howを探しているんです。利益率や売上から、過去の延長線上で解決策を探すことをしています。
みなさんが先ほどアンケートで答えてくださったアイデア創発の共創はここだと思うんですね。いきなりHowを探そうとして、それに対するアイデアをたくさん出すことを試行錯誤しながら繰り返しているということです。
特にハッカソンなどをやっている中でよくわかるんですが、そもそもどこに問題があるかのWhatを探る、あるいはありたい姿のWhyを探究する、このあたりからアプローチしていかないとダメだよということを山口さんも言っていますし、我々もそう思っています。Howだけではなくて、その前にあるWhat、さらにその上位にあるWhyから見つめていく必要があるんじゃないのかなという議論ですね。
そのために具体的に何をするかというと、問いを考えましょうということです。いきなりHowを考えるのではなくて、何をすればいいか、何をする必要があるかを考える。こういったことも共創の1つです。答えを作る上でも、問いがなければ答えは作れないので、問い作りの重要性や、探究の共創ということを位置付けとして知っておいていただきたいと思います。
※ 参考:問いは未来を創るのか? ―〜未知を照らす「創造の触媒」としての問い〜―(BackCasting Lab記事)
もう1つ、企業の共創におけるWhyやWhatの必要性のお話として、例えばみなさんが共創で新規事業を作りたいということになったとします。我々も企業からご相談をいただくことが多いのですが、その際には「ISO5600(イノベーションマネジメントシステム)」という新規事業を作るためのガイドラインを元に、組織内で共創や新規価値創造をする場合によくある課題や事象をリストアップして、こういったことを考えてくださいねということをお話ししています。でも、これがなかなか実現できないんですよね。これをどうしたらできるようになるのかをみんなで考えていくことは、まさに課題解決の共創になります。
どうしても新しいアイデアやパターンを出すということを先に考えてしまいがちですが、アイデアの前提になるような課題の整理や、「何を考えるかを考える」という探究の部分がやはりとても大事だということをぜひ認識していただきたいと思っています。
先ほど紹介した山口さんの書籍の中で、未来を予測するのは難しいけれど、実現したい未来を構想することはできるという話がありました。最近は「パーパス」「MTP(Massive Transformation Purpose)」なんて言われていますが、やはり野心的な目標やゴール、ビジョンを作らないとなかなか組織でイノベーションは起きないところがあるので、ここの「ありたい姿」に対する合意を作るための共創はやはり必要です。アイデアを考えるというよりは、上位概念の共創が今、特に企業ではますます重要になっていると言えます。
我々自身もハッカソンやアイデアソンをたくさんやっているんですが、Howを考えるイベントになってしまって失敗するパターンも多かったわけです。そうではなく、「何のためにこれをやるんだっけ?」「我々が目指すこの先に何があるんだっけ?」というパーパスやビジョンを押さえておかないと、結果的にずれてきてしまうんですね。ですから、Howの議論に行く前に、What、Why、なぜやるのかということ、それ自体を共創しておいていただきたいというお話です。
もう1つ、組織運営上の共創の必要性にも触れておきたいと思います。例えば、組織変革を起こしたいといった場合、我々が参画する際には、チームを作ってビジョンを作ってくださいという言い方をするんですね。変革チームのビジョンを作りましょうとお伝えします。このように答えがない中で考えていく時には、リーダーシップが発揮される必要があります。
組織マネジメントには、マネジメントとリーダーシップの2種類があります。マネジメントは予算を設定し、計画を立て、ウォーターフォールで回すという方法です。リーダーシップは、逆に先行きが不明な中で引っ張っていかなくてはいけない時に、ビジョンや方針を示して、メンバーの動機づけを行ってマネジメントしていくという方法です。
いずれにしても、ビジョンの設定が必要です。それはリーダー1人でできるかというとなかなか難しいところがあるので、方針やビジョンを作るというところでも共創が求められています。
組織運営上の共創の必要性としてもう1つお話ししたいのが、よく組織開発の話で出てくるストーリーとして「成功の循環モデル」というものがあります。これは元MIT教授のダニエル・キムが作ったモデルで、組織を回すためにはまずは関係の質を上げましょうということを言っています。
人間関係がよくなるとお互いフランクに話し合えて、心理的安全性が担保されることでどんどんアイデアも言いやすくなり、思考の質も上がっていきます。新しいアイデアが出てくれば、当然行動も変わってきますし、行動の質が変わってくれば結果の質も変わっていきます。
でも多くの組織の場合、結果の質だけを求めがちです。「結果を出せ」というマネジメントは部下にプレッシャーを与えるわけですよね。上司・部下の指示命令系統になって、関係性の質が壊れてしまい、思考も働かずに結果も出ないということになります。結果や行動を管理しようとするマネジメントが行われがちですが、そうすると結果も出ずに、ますます関係性が悪くなってしまう。
そうではなく、やはりこれから求められるのは、いかに心理的安全性を担保するかであったり、いかにエンゲージメントを高め合えるか、いかにやる気を引き起こすかということです。そうすることでより成果が上がるところがあるので、この関係性の質や思考の質を上げることを考えていくことがやはりとても大切です。
具体的な関係性の質のレベルに関してスライドで示しています。関係の質が上がると、それが思考の質になり、思考の質が上がると行動も変わってくるというモデルです。例えば「知っている」「話をする」という簡単なレベルから、「共通のものを持つ」というレベルもあるんですが、例えばレベル5の「規範を共創する」というのは、組織のゴールや決まりごと、価値観などの行動規範を共創して合意できているという状態です。
そしてレベル6の「成果を共創する」。ここをみなさんは求めたいと思うんですよね。実際のアウトカムであったり、ネタについて共創してきたいということを言われるんですが、その前の組織規範の共創がないままに進めてしまうと、その上のレベルであるアイデアも出てこないところがあるんですよね。だからコミュニケーションができていなかったり、関係の質がよくなければ、思考の質もよくなっていかないわけで、思考の質がよくならなければ、結果・行動も変わらないわけです。
どうしても一足飛びにHowを求めたがったり、一足飛びにいきなりビジョンを作りたいという話になりがちですが、順を追って、その手前で共創すべきことがありますよねということをぜひ認識していただきたいと思います。
ということで、共創に関してのまとめですが、正解・Howを探すより、WhatやWhyを探すことが大切です。そのためには探究が必要ですということ。それから未来を構想すること、未来を合意形成する、合意形成の共創もほしいですということです。
あとは組織運営上も、方針・ビジョンの共創であったり、関係性の質を上げる共創というものがありますよということをご紹介しました。どうしてもHowを考える共創になりがちですが、また違った位置付けの共創についてもぜひみなさんにはご理解いただきたいと思っています。
アンケートでもお答えいただいた通り、多くの方はアイデア創発の共創、価値を作りたいというところに行くんですが、その前に、特に組織ではやるべきことはたくさんあるんですよというご説明をしました。問いを探す、何を考えるかを考える共創や、方針やビジョンの合意形成をするための共創といったことの位置付けを認識していただきたいなと思っております。
最後に少しご説明したいのが、我々は企業からDXまわりやイノベーションまわりのご相談をいただくことが多いんですが、その中でご紹介するイノベーションガイドライン等には、たいてい「原理原則」という言葉が出てくるんです。「原則は出すから、その中であなたたちがルールを決めてね」と言われるわけです。
例えばPMBOKというプロジェクトマネジメントのガイドラインでも、今度第7版が出るんですが、ほぼ原理原則しか提示されなくなるんですよね。その原理原則を組織でどう解釈するかというところにズレがあると困るので、まさにそこも共創だと思うんですよ。だから、「原理原則の解像度を上げる」みたいなことも1つの共創になってくると思います。
ますますいろいろな意味での共創のシーンが入ってきていますので、アイデアを出すための共創以外にもあるよということを特に今日はお伝えさせていただきました。私の話は以上になります。
宮島:それでは、ここからはトークセッションに入っていきたいと思います。まず、今日ご参加のみなさんに事前にアンケートを取ったところ、やはり内部での共創に関心がある方が30%、外部での共創には70%ということで、外との共創を意識している方が多いという結果でした。先ほど矢吹さんからは、逆にその手前にやることがあるよというお話がありました。
お2人にお聞きしたいのですが、2014年の創業以来、多数のハッカソン・アイデアソンを現場で行ってきたり、関さんもCode for Japanで行政を中心とした共創の現場を見てこられたと思いますが、これまでの8年間のご経験、失敗や逡巡の中から、それぞれご自身の中でどんな気づきや変化があったでしょうか。
関:僕自身の変化としては、自分1人で全部やらなくていいということで、すごく気が楽になりました。もちろんそのためのいろいろな準備や大変なこともありますが、まずは楽になった感覚があるということですね。
あとは、自分だけではできないようなことが組織でできるようになりました。まさにCode for Japanがそうですが、普通にやったらなかなか難しいようなことでも、多くの人と課題を共有することによって、いろんな知恵が出てきていつのまにかうまくいっているみたいなことがすごく増えてきたかなと思います。そういった経験から、自分の経営者としての感覚が大きく変わりました。
宮島:矢吹さんは、ハッカソンやいろいろな企業との取り組みの中で、やったあとに「せっかくやっても……」というご経験もあったかと思うんですが、ご自身の中でイベントや企業との取り組みに対する見方の変化などはあったのでしょうか。
矢吹:本当に早いもので8年が経ちましたが、オープンイノベーションのイベントは、当初はやはり「この技術を広げたい」というクライアントさんがいて、技術ドリブンで活用シーンのアイデアを考えるといったようなHowの議論が多い共創をしていたと思います。その後、行政側からの依頼が増えてくると「この課題を解決してほしい」というような、どんな課題を解決するかのWhatを考える議論になっていきました。
また初期の頃は、行政や企業との取り組みが打ち上げ花火に終わってしまって、なかなか結果が次に続かないことが多かったんですよね。イベント終了後のアンケートの満足度は高いんだけど、そのあともう1回ゼロベースに戻ってしまったり、もう二度とないみたいなことが起こってしまった。
そういった中で、「そもそもなぜこのイベントをするんでしたっけ?」ということを、我々自身が顧客に問いかけ続けたんですよ。HowからWhat、WhatからWhyに立ち返っていくことで、我々自身も手段としてイベントを行うのではなく、この取り組み自体から気づきや学びを得ることができて、これは組織の運営にも使えるんじゃないのかなということを思うようになりました。
当初は我々は「技術イベントをしている会社」というイメージでしたが、今は「Whyを探求するための伴走者」というところに位置付けが変わってきているのかなと思いますね。
宮島:関さんはオープニングトークの中で、3つの条件ということをお話しされていました。特に「共感できる旗を立てる」というところで、企業やコミュニティでのWhyやパーパスの重要性を強く感じるところがあるんですが、旗を立てるということについて、具体的にどのように共創をされているのか教えていただきたいです。
関:その前に、Q&Aに「初めての単語なので、共創の意味がわかりません」というご質問をいただいているので、そもそも共創とは何のことを言っているのかをまず簡単にお話ししたいと思います。
共創とは、いろいろな立場を越えて、いろいろな人たちが共に創る関係になることを指しています。英語では「Co-Creation」といって、「Co」はみんなで作るということを指しています。
ということで、「共感できる旗を立てる」の話に戻しますと、旗の立て方はそれぞれだと思います。強い想いのある人がトップダウンで「これをやりたいんだ」みたいな旗を立てて、それに対して仲間が集まってくるというケースもありますし、最初から「みんなで考えようよ」というケースもあると思っています。
Code for Japanの場合は、まさにみんなで考えたというかたちでしたね。立ち上げの際に「Code for Japanを始めるので、興味がある人は集まってください」という声かけに対して、50人ぐらいのメンバーが集まりました。そのメンバーを集めて、当時まだHackCamp創業前でしたが、矢吹さんにファシリテーションをしてもらって視覚会議というものを行いました。
「そもそもなぜ来たのか?」「このキックオフになぜ集まったのか?」「どういう課題を、どうして解決したいと思っていて、どんなことをやりたいのか?」みたいなことをワークショップでお互いに話し合った中からいろいろなキーワードが生まれて、最終的に「それって『ともに考え、ともにつくる』だよね」ということになり、最初のビジョンが決まりました。
なので、腹落ちする言葉をみんなでしっかり考えるということが、僕の場合はすごく大切でした。
宮島:一人ひとりのWhyをつなぎ合わせて、Code for Japanという団体のいちばん核となる言葉を見出していったということですね。そのビジョンの決定があったからこそ、ここまで持続性を持ってコミュニティが育っているというところがあるかと思います。
矢吹さんにお聞きしたいんですけれども、ハッカソンやアイデアソンをやってもCode for Japanと同じようにはコミュニティが持続しない場合も多くあります。これが消えてしまう原因は、矢吹さんなりにどう解釈されているでしょうか。
矢吹:まず、イベントの後工程をきちんと準備しているかどうかというところですね。あえて「打ち上げ花火」と言いますけど、イベント直後は参加してよかったと思ってもらっても、打ち上げ花火のあとをどうするか、あらかじめ主催者側が企画設計しているかというところが1つのポイントなのかと思います。
また、参加者側の視点の部分でいうと、大きくは「自分ごと化」させられるかどうかということがあると思います。そのテーマに関心があって参加する人もいれば、よくわからずに参加する人、なんかおもしろそうだから参加するという方などいろいろといらっしゃるんですよね。それが初めてのイベントデビューで、ハマる人とそうじゃない人が出てくるということもあると思います。最終的には参加者自身が自分ごと化をして、楽しさをそこに見出せるかというところが重要だと思います。
最近「パーパス経営」ということがよく言われていますが、名和高司さんの『パーパス経営』という書籍の中で、パーパスの定義が3つあげられているんです。1つは「ワクワク」、2つ目が「ならでは」、もう1つは「できる」。これが要件だと言っているんですよ。
なので、パーパスが何らか自分を引き付けるゴール・ビジョンだとするのであれば、どれだけ「ワクワク」「自分でもできるんだ」「自分ならでは、自分が貢献できているんだ」というところを参加者自身に感じさせるイベントになっているかというのが、コミュニティの持続性に関してはとても大事なのかなと思います。
そのような課題に対して我々がどう動いているかというところでは、特に行政のイベントだと、仕様がもともと決まっていて企画部分になかなか手を入れられないことが多く、その中でどう参加者の満足度を上げて持続的なコミュニケーションを取っていくかということには今とても苦心しています。予算が切れてイベントが終わった後にもきちんと持続するようなコミュニティデザイン設計については、我々独自の活動として今動き始めているところです。
宮島:ありがとうございます。今、矢吹さんからは「自分ごと化」というキーワードが出てきましたし、関さんのトークの中でも「個人の成長と組織のパーパスをうまくつなげていくと関係の質もよくなる」というお話がありました。
今日は個人で参加していらっしゃる方も多くいらっしゃると思いますが、改めて個人と組織の関係について、お2人に一言ずつお伺いしたいと思います。
関:個人の成長が会社の成長とリンクするというのは、僕もずっとミッションとしてやってきてはいますが、すごく難しいなと思っています。会社によっても違いますし、僕の運営している組織それぞれでも全然違うカルチャーが生まれていっているので、なかなかコントロールできるものではない部分も大きくあるなと思っています。なので、これをやれば正解みたいなものはない世界なんですよね。
ただ、そういうのが大事だと言い続けることは、僕の中ではすごく重要だと思っています。「それ、どう思う?」っていうのをスタッフにぜひ考えてもらいたいと思っているので、なるべく考える機会を作るということは組織運営上で心がけています。あとはやはり、良い問いを立てることですね。常に問いかけるみたいなことが、自律心や共創に向かう土壌を作るのかなと思います。
矢吹:共創する場合に、空っぽな人間を集めてもあまり価値は出ないと思うんですよね。何らかの自分なりの軸を持っている人が集まって、そこで初めてCo-Creationが起こったり、集合知が生まれると思うので、まず自分自身が探究心を持ったり、仮説を立てたり、意見を持つということが大事かなと思います。
スタートはやはり自分の好奇心やワクワクですよね。先ほども言ったように、「ワクワク」「できる」「ならでは」、ここが共創の「Co」のスタートラインだと思います。我々もクライアントから依頼を受けて共創のお手伝いをすることがありますが、参加者が楽しまなければなんら意味がないということはいつも考えています。
それから、実はHackCamp自身がすごく共創を実践している組織なのではないかなと思っています。10名ぐらいの小さい会社ですので、ほぼマネジメントはしていません。ティール型組織のような自律した組織を目指しているのですが、そのためには社員がしっかりと自律自走していることが前提なんです。
関の支援が大きいところがありますが、社内カルチャーを作っていく動きやさまざまな活動を通じて、メンバー一丸でティール型の組織を目指しています。今回のホームページのリニューアルも全部内部でディスカッションしながら、まさに共創で作り上げたプロジェクトです。
※ 参考:チームの共創で見つけた HackCampのビジョンとミッション(HackCamp noteより)
自律自走、自分ごと化、楽しみながらするということが共創の大事なポイントだと思うので、共創をミッションに掲げているHackCamp自身が実際にそれを体現している組織でありたいし、そうあり続けたいなというのが今の気持ちですね。
宮島:お2人のお話を伺って、言葉はその人の中から、その人の力で出てこなければ力にならないというネイティブアメリカンの言葉が思い起こされました。やはり自分の言葉を探して、自分なりの旗を立てる人がいて、そしてチームが共創していくということを日々やっているのかなと思いました。
HackCampのメンバー自身もすごく葛藤しながら「共創ってなんだろう」ということを日々追究しているので、そういったところも今後いろいろなイベントを通じてみなさんにもお伝えしていきたいと思っております。
ここからは参加者のみなさんのご質問にお答えしていきたいと思います。まず、「リモートという働き方の変化もあって、共創の手前にあるべき社内のコミュニケーション部分に課題があります」というご質問が来ています。このあたりは関さんはどうお考えでしょうか。
関:課題感はすごくよくわかります。リモートって効率性はすごく上がると思うんですけど、隙間時間がなくなって雑談の時間がなくなってしまいましたよね。それによって創造性が生まれにくくなってしまったり、信頼関係を結ぶ時間が非常に少なくなってしまったということが実際にあると思っています。
僕たちはリアルな関係、物理的なコミュニケーションは全然否定するものではなくて、すごく必要だと思っています。HackCampでも、できるだけコロナの隙間を見ながらオフライン合宿をやるようにしていますし、そこで生まれる新たなアイデアや信頼関係というのは、やはりオンラインではなかなか難しいかなと思っています。なので、普通に気軽に集まれる状況がまた来てほしいなとは思います。
とはいえ、オンラインにはオンラインのよさもあるので、そこは使い分けがすごく大事かなと思っています。
宮島:我々HackCamp自身は、リモートの状況下でオンラインホワイトボードを多用しています。それを見ながら関さんと社員が1on1を行ったり、クライアントのプロジェクト自体をホワイトボード上で遂行していたりもします。
それぞれがホワイトボード上に意見の付箋を貼っていくと、それをたたき台にして議論を進めることができるので、必ずしも全員集まれなくても、自宅で子育てをしているメンバーや闘病しているメンバーとも、非同期でも話を進めていくことが可能になっています。実際にホームページのリニューアルプロジェクトもこのような方法で行いました。
最近ではお客様とのコミュニケーションにおいても、オンラインホワイトボードで議事録を取って、時系列で全部見られるようにしています。そうすると、あとから新しくプロジェクトに入ったメンバーもこれを見れば一目瞭然で、効率よく情報共有をすることができます。こういったツールを利用して、オンラインのコミュニケーションをなんとか保つような努力もしています。
次に、「共創のスペースの必要性について」というコメントをいただいていますが、こちらについてはいかがでしょうか。
矢吹:オンラインの共創スペースはとても大事じゃないかなと思います。同期で話し合うこともできますし、非同期でも記録を残して積み上げることが可能になりますよね。
オンラインにおいては、議論を可視化させるということが1つポイントだと思うんですよね。可視化することでムダな議論がなくなるメリットがありますし、逆に余白がなくなるというデメリットもあるかもしれませんが、オンラインでの共創スペースの活用は、もう我々としてはなくてはならないものにはなっていますね。
宮島:オフラインの共創スペースはいかがでしょう?
矢吹:オフラインでもあるといいですね。我々もコロナの合間を縫って、昨年末にオフサイトミーティングを行いましたが、実際に集まると今までにない議論ができますし、お互いに安心感ももらえたりするところがあり、効率性やアウトカムだけではない何かがあると思うんですよね。これはとても大事にしたいです。
でも、毎回それをやらなくても、ある程度心理的安全性や信頼関係を確認することができていれば、あとはオンラインでも持続はできるだろうなと思います。やはり一度リアルがないと、完全にオンラインだけで完結できますということは言い切れないところはまだありますね。
宮島:もう1点、先ほどのご質問に関連した質問で、「オンライン、オフライン、地方でのワーケーションも含めて、新しく共創スペースがどんどん出てきています。そこを回すのはどんな人がやるべきか、あるいは人材が足りていないという課題に対して解決策などはありますか?」ということに関してはいかがでしょうか。
矢吹:「実際に会って話すとなんとなくいい感じだよね」というような、言語化されない部分を1つのアウトカムとして捉えられる部分もあると思うんですが、我々の仕事としては、それを可視化して、仕組み化をするということをしているんですよね。対話や共創やアイディエーションを可視化して、プロセス化して、仕組み化する。そうするととても効率よく行うことができるんです。一度それを体感していただけると、またリモートでも同じことができるよねとなるわけです。
初めからリモートでやるのはハードルが高いかもしれませんが、プロセスや仕組みを活用することで、なんとなく雰囲気でやっていたところを、確実に再現性を持った共創にすることが可能になります。
「なんか人間味が薄れるよね」って思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こと思考の部分に関して言えばそれは一定の効果があると思っているので、プロセスの導入、仕組みの導入というのはぜひ1つの選択肢として検討いただけるといいのかなと思います。
関:僕は、地方のコワーキングスペースなどの共創スペースはすごく大事だと思います。オフラインの場所のよさは、セレンディピティだと思うんですね。特に企業間でのコラボレーション等には、最初から商談目的じゃないコミュニケーションがすごく大事だと思うんですよ。
地域のそういったスペースで知らない会社同士が知り合ったり、地域のためにどういうことができるかを考えたり、そういった文脈でアイデアソンを行ったりする中で新たな関係性が生まれていくことはすごく価値のあることだと思うので、そこを回すことができるコミュニティマネージャーみたいな人がもっと出てきてほしいですね。
宮島:HackCampも「共創の民主化」を旗印にして活動しているので、そういった方を一緒に育てたりすることもぜひできたらと思っています。
最後の質問です。「共創の経験があるけれども、反対勢力で自分軸のない人たちがいます。どう対処すればいいですか?」ということなんですけれども、何かアドバイスや助言がありましたらお願いします。
矢吹:私のアドバイスとしては、「質問を作らせる」ということです。これは小学校や中学校でもやっている授業のやり方です。問いを作るというのは、誰もがシンプルに持っている、自分のエンジンにスイッチを入れるやり方なので、問いを作らせることがいいと思いますね。
関:「抵抗勢力にも考えさせる」というフレームはあるかなと思っています。視覚会議(※注)もそういうスタイルのワークショップですよね。ネガティブな意見を薄めてポジティブに向かわせるといったような、コミュニケーションの補助線を引くようなやり方はテクニックとしてもいろいろあると思います。
※ 注:視覚会議とは? (視覚会議Webサイト)
宮島:いろいろなテーマで議論をしているうちに、その人の琴線に触れるようなテーマが見つかると燃え上がってくれる場合もあるので、手を替え品を替え、私たちもそういった心に火をつけるやり方は試行錯誤していますので、またご関心がありましたらぜひご相談ください。
急ぎ足になってしまいましたけれども、トークセッションはこちらで終了いたします。矢吹さん、関さん、ありがとうございました。
関・矢吹:ありがとうございました。