普遍的、かつ壮大なテーマである「宇宙航空の意義や価値」を見出すべく、未来のビジョンを合意形成するワーク「視覚会議」と、ありたい姿を実現するための戦略を作るワーク「フューチャーコンセプト」を行った宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)。
過去に社内で何度か将来検討を体験してきた参加者を持ってしても、「HackCampさんのワーク手法を、大変有効に活用させていただくことができました」と語ります。今回のプロジェクトの舵を取った経営企画部の柳瀬さん、嶋田さんにその真意を尋ねました。
JAXAは、宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまでを一貫して行う機関です。各専門分野の研究者たちが集結し、常に先々の未来を見据えた議論を行っています。そんなJAXAが今回取り組んだテーマは「宇宙航空開発の意義・価値を再認識すること」でした。
「宇宙や航空の研究開発って、今すぐに役立つこともありますが、一方で月探査や小惑星に行って人類の起源を探す活動など、発案してから実現するまで10年も20年もかかることが多々あるんです。加えて最近は、世界各国の民間企業、新興企業が宇宙開発に参入してきている。ここでJAXAとして改めて、『何のために宇宙航空の研究開発をやっているのか?』という議論をし、共通ビジョンを持つ必要性を強く感じていました」(柳瀬さん)
実はJAXAでは、これまでにも定期的に有志が集まり、将来検討をするワークショップなどを社内で行ってきました。なぜ、今回は外部にファシリテーションを依頼することにしたのでしょうか。
「今回想定していた参加者は約20名。部門を横断したプロジェクトであり、正解がないテーマに対して参加者全員が納得し、短時間で合意をとるには少し規模が大きく、自分たちの力だけでは難しいと感じたからです。
また、従来はKJ法(アイデアを付箋などに書き出して情報整理する手法)などを用いてきましたが、別の方法も試してみたいなと思ったことも理由のひとつですね」(嶋田さん)
今回、参加者側から初めてワークショップの運営側にまわった柳瀬さんと嶋田さん。早速、抱えている課題を解決し、伴走してくれるパートナーを、他のプロジェクトメンバーと共に探し始めました。そして出会ったのがHackCampでした。
「今回、プロジェクトが動き出してからワークショップを実施するまでのスケジュールが非常にタイトでした。HackCampさんがとても良かったのは、どういう目的で設計されたワーク手法なのかが、明確でわかりやすかった点です。HPの説明を見ただけで、『あ、これは我々がやりたいことにハマりそうだ』と直感的に感じました。ファシリテーションの方向性やアウトプットがイメージできるHackCampさんの手法の明確さはありがたかったです。」(柳瀬さん)
さらには、宇宙航空の研究開発の意味や価値を話し合い、結論が出たら終わりではなく、その先の「どうやってその意味や価値を実現できるか」についてのワークも実施してみたかったと柳瀬さん。その意味で、視覚会議に加えて、HackCampが提案するフューチャーコンセプトというワーク手法も、プロジェクトメンバーの想いにマッチしたようです。
「いざ、体験会に参加してみて驚いたのは、一つひとつのワーク設計がかなり緻密に、そして計算されている手法だということでした。参加者が平等に発言ができ、お互いの承認欲求もきちんと満たしながら、最後には共通の単語で作文を作る。これまで社内で論理的な議論はしつくしたと言ってもいいほどディスカッションを重ねてきた僕たちにとって、HackCampさんの手法であれば最後に全員が”共感”し、”腹落ち”したうえで合意形成に至ることができるな、と前もって理解することができました。」(柳瀬さん)
体験会で確かな手ごたえを感じた柳瀬さんと嶋田さん。そしていざ、ワークショップ当日を迎えました。
費やした時間は、約半日。視覚会議で参加者全員のありたい姿を導き出し、フューチャーコンセプトでそれを実現する戦略を生み出す。実際に参加したメンバーから出てきた感想の中から、特徴的だったものをお伝えします。
「約20人という大人数でしたが、実際に参加してみると、大きな腹落ち感がありました。今回のような答えのない問題の場合、みんなが納得することがとても重要なんですよね。一人ひとりに発言機会があり、全員が参加していることが目に見えてわかった点も、視覚会議のありがたかったことです。」(嶋田さん)
「宇宙航空の研究開発って独りよがりではダメなんです。今回の課題は私たちJAXAにとってのものでしたが、ひいては人類の課題として取り組むべきものとも言える壮大なテーマです。だから、導き出した結果だけでなく、途中の話し合いにおいても、参加者20名全員が腹落ちしなくては、全人類も腹落ちできない。
視覚会議では7~8割の合意形成を目指していましたが、結果、全員の納得感がありました。各々の承認欲求を満たし、共感し、腹落ちへ。この流れが議論をまとめていくのに大変役立ちました。」(嶋田さん)
「実は、視覚会議を行う前に、2日間で独自の勉強会を行いました。こういったワークショップや勉強会って、何の事前情報もなく始めることが多いのですが、あえて前もって関連情報を参加者の頭の中にインプットし、視野を広げておくという下準備をしておいたんです。すると、3日目にあたる視覚会議で、散らばっていた情報をぎゅっとまとめてもらえた。これまで自分たちで行っていたときはその収れんのやり方に悩んでいたので、HackCampさんの手腕には本当に驚きましたし、勉強になりました」(柳瀬さん)
「メインファシリテーターの方は、参加者一人ずつから意見を引き出していくけれど、決して議論はさせない。出てきた意見をとにかく書き出していき、それらを互いに認め合っていくなかで、自然に話し合いが進んでいきました。これは、視覚会議の特徴ではないでしょうか。
今回は対面式で行いましたが、日本全国、世界各地のJAXAメンバーとオンラインで行うことも十分できそうだと感じました」(柳瀬さん)
「ワークショップ後に、今回の視覚会議で得られた結論と、過去に同じような議論をした際に出た結論とを比較してみたのですが、いずれも似通ったキーワードや文章が出てきていました。今回議論したテーマの性質にも要因はあるものの、合意形成でたどり着いた結論や方向性は、過去の事例と比較しても間違いがなかったということ。この事実が知れたことは、すごく腹落ち感がありましたね」(嶋田さん)
今回は「宇宙開発」という普遍的な、ある意味哲学的なテーマに対するワークショップでしたが、今後はもっと広くHackCampのワーク手法を利用できるかもしれない、と柳瀬さん。
「たとえば、研究のテーマ出しや、あらゆる場面における課題設定。マネジメントや事務管理なんかもそうです。みんながモヤモヤと抱えている不満、でもただ話し合っているだけでは単なる愚痴になってしまうような(苦笑)。そういった身近な課題解決にも、HackCampさんのワーク手法は使えそうだと感じました」(柳瀬さん)
「おそらく『答えがない』というのが共通項ですね。問題はたくさんあるけれど、解決するためのアプローチ方法がわからない。そんなシーンで、『この方向性で行きましょう!』と短時間で合意形成できる視覚会議を活用できる場面は大いにありそうだと感じました。」(嶋田さん)
大人数でも、短時間でも、確かな結果が導き出せるHackCampのワーク手法により、未来のビジョンに向けてさらなる歩みを進めたJAXA。これからも人類の夢と希望を背負い、宇宙航空の研究開発を進めていきます。
2023年1月(プロジェクト期間:約2ヶ月)
約20名程度