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【ウェビナーレポート】前編 バックキャスティングをビジネスで活用するヒント

2021.6.3

「VUCA(※)時代において、いかに企業を成長させていくか?」

おそらく多くの企業がぶつかる壁であり、解決策を模索しているテーマではないでしょうか。

震災や世界的な経済不況しかり、2020年に突如勃発した新型コロナウイルスの感染拡大しかり、先行き不透明な現代において、いつ何時いかなるトラブルが起こるかわかりません。

突然の社会変容が起こったとき、これまでの戦略や経験だけでは通用しない可能性があります。企業や組織が成長するためには、新しい発想や思考を積極的に取り入れて、シーンに応じたさまざまな戦略を使い分けていく必要があるのです。

そんななか、いま大きな注目を集めているのが、バックキャスティングという問題解決の手法。

この記事では、2021年6月にHackCampが開催したウェビナーの内容を簡潔にまとめ、前後編に渡ってお伝えします。

※VUCA:Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)といった予測不能な状態

従来の目標達成方法=フォーキャスティング

バックキャスティングについて見ていく前に、まずは今現在大多数の企業で取り入れられている目標達成方法:フォーキャスティングについて把握しておきましょう。

【フォーキャスティングの特徴】
・過去・現在の延長線上で目標を設定する
・目の前の課題に注力し、その積み重ねで目標達成へと近づけていく
・重要となるのは「過去の経験」
・多くの場合、上層部が決定した数字ややり方を、下はそのまま受けて行動する(トップダウン)
・目標設定は現状+3~10%アップが目安

【問題点】
・これまでの経験や実績に基づいて計画通りに進めれば、達成できない目標ではないが、大きな成長にはつながりにくい
・予測不能な事態への対応が難しい

つまり、フォーキャスティングは、品質改善や性能向上、業務の効率化など「既存事業の深堀り」―ビジネス界で注目を浴びている「両利きの経営」という概念で言うと、「深化」(できることを積み上げていき、成果を得ること)―は得意です。

けれども、これからのVUCA時代を乗り切るためには、もうひとつ、新たな概念が必要なのです。

これからの時代=バックキャスティング

ここで登場するのが、今回のテーマであるバックキャスティング。フォーキャスティングといわば対極にあるといっても過言ではない、数々の特徴を見ていきましょう。

【バックキャスティングの特徴】
・最初に「ありたい未来の姿」を定義する
・最終目標から逆算して、実現方法を考える
・多様なメンバーと共創して問題解決策を定めていく
・既存事業から一旦離れ、これまでまったく経験してこなかった新規事業やサービスを発掘していく
・かなり高い目標に向かっていくため難易度も高い。60~70%の達成を目指す

【問題点】
・まずはプロジェクトに携わる全員の意識改革が必要
・目標が破綻しやすい
・バックキャスティングのプロセスだけを導入しても、劇的な効果は期待できない

バックキャスティングは、新規事業やサービスの開発など、新たな事業機会の発掘―両利きの経営で言うところの「探索」―に適しています。

これまでのフォーキャスティングによる「深化」に加えて、バックキャスティングでの「探索」をうまく活用できれば、プロジェクトメンバー皆が同じ目標に向かって進んでいく一体感が得られます。また、ありたい姿やゴールにたどり着くための具体的な課題が明確になるので、より高い効果を出しやすい思考法だと言えるでしょう。

※バックキャスティングについて、もっと詳しく知りたい方はこちら(https://shikaku-kaigi.jp/pickup/backcasting/)もぜひご覧ください

バックキャスティングの事例

バックキャスティングの大まかな特徴がわかったところで、続いては、実際にバックキャスティングの導入事例をご紹介します。

次の4社は、HackCampおよびそのスタッフがお手伝いさせていただき、バックキャスティングを取り入れたことで、企業として大きなステップアップへとつながりました。

CASE1:グローリー株式会社

グローリー株式会社 経営企画 丹羽重勝さん

国内外で通貨処理機のシェアNo.1であるグローリー株式会社。100周年を迎えるにあたり、さらに進むであろうキャッシュレス化を視野に入れた10年後のビジョンを作成、その際に導入したのがバックキャスティングだった。

■導入の理由
時代や環境の変化が激しい現代において、フォーキャストでは予測できない部分が多々あると感じていた。また、他社と差別化をはかるためにも、バックキャスティングは必要不可欠であった。

■実行したこと
若手限定の新規ビジネスのタネを探す「Glory Youth Challenge」を開催。若手30名が2日間のイベントに参加し、ビジネスアイデアのプロトタイプを作成した。オンライン中継やweb投票などもおこない、全社員を巻き込んだ催しに。優勝チームに贈られたのは、世界のなかでも特にキャッシュレス化が進んでいる中国深圳市場調査の権利。さらなる新たなビジネスのヒントをつかんでくることが期待されている。

■得られた結果
良い意味で「グローリーらしくない」新しい試みができたことで、組織全体がポジティブな思考中心へと変わっていった。社内メンバーだけでは、このような斬新なチャレンジには繋がらなかった。考え方の視野が広がったことを実感している。

また、今回の取り組みによって社内理解が得られたので、次のステップではベテラン社員も巻き込み、アイデアのブラッシュアップやメンタリングに繋げていった。単発で終わらせることなく、継続的に施策を試みたことで、より組織の変容を感じることができた。

※グローリー会社の挑戦の詳細はこちら(https://hackcamp.jp/consensus/groly/

CASE2:コマツ

コマツCTO室 室長 花本忠幸さん

1921年の創立以来、常に日本の建設機械業界をリードしてきたコマツ。「未来のコマツ」を描くボトムアップ型のビジョン探索するために、バックキャスティングを導入した。

■導入の理由
社内の決まったメンバーのみで会社の未来予想図を模索しても、考えが偏ってしまうことを懸念していたまた、トップダウンでビジョン形成を行うのではなく、現場の社員自身が思索と対話を重ねたうえで、それぞれが自分事として会社の未来について考えてほしかったため、バックキャスティング手法を用いて「未来のコマツ」のビジョンを探索したかった。特に、バックキャスティング等を駆使した多様なアプローチによる提案内容に対し、面白いという感触があった。

■実行したこと
世界の複数拠点に散らばる(外国人を含む)4グループをオンライン上でつなぎ、203X年事業プランを検討。今回のワークショップでは、あくまでも方向性の策定など中身の部分のみに焦点を当て、今後の軸となるアウトプットの創出に努めた。

また、英語しか話せないメンバーも参加しており、言葉の壁が進行の支障にならないように、会話に依存しすぎないような手法や通訳のサポートを盛り込んだ。

■得られた結果
現場で働く多様な社員の意見やアイデアをもとに、100周年を記念したスペシャルムービーの根拠となる「未来のコマツが実現する世界」のビジョンを作り上げた。

今後、コマツ社がさらに会社の未来の姿を深掘りしていく際に、今回得られた社員のアイデアやビジョンが活用されていく予定。

※コマツの挑戦の詳細はこちら(https://hackcamp.jp/ideathon/komatsu_visionws/

CASE3:一般社団法人 Code for Japan

Code for Japan 代表 関 治之 さん

地域コミュニティと行政が連携し、ITを活用して課題を解決していく一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下Code for Japan)震災を機に「発災前から行政と市民が連携しておけば、支援の幅をもっと広げられる」と気付き、米国のNPO団体「Code for America」の活動を参考に、日本版であるCode for Japan を設立。その立ち上げ時に、バックキャスティング思想を導入した。

■導入の理由
Code for Japanはいわば知らない者同士の集まりであったため、各々が主体的な役割を作る場を作り上げたかったことが目的のひとつ。よくある、発起人や特定のメンバーばかりがメインで発言する場ではなく、何を考え、どう行動していくべきかを参加メンバー全員が声を発する場にするため、以前から面識があった、視覚会議(※1)開発者の矢吹氏に声をかけてバックキャスティング導入の相談をした。

■実行したこと
設立準備ミーティングを行い、「IT開発者と政府・自治体をつなぎ、プログラミングの力で行政を改善する」という、大きな枠組みだけ決めたところからスタート。チームとしてあるべき姿を策定した。通常は5~6人で行うことが多いミーティングだが、このときは異例の総勢60名以上が参加。少人数のグループに分け、グループ単位で意見を出す手法を実施し、参加者全員が自分事として話し合いに参加できた。

■得られた結果
現在は、地域にあるさまざまなデータの活用や課題解決のためのアプリ開発などを行っている。その際、各地域の代表者とコアになるメンバーを中心に、そのコミュニティにいる人たちと「あるべき姿」をバックキャスティングによって探索し、課題に着手。従来の行政にありがちなトップダウン型ではなく、ボトムアップ型でのアプローチを進めている。

※Code for Japanの挑戦の詳細はこちら(https://www.backcasting.net/interview-2019-seki/

CASE4:福島県浪江町

バックキャスティングは、企業だけに限った問題解決法ではなく、地方自治体や地域団体でも導入し、住民とともに一丸となって大きな目標に向かっていくことも可能。その理想的な例が、福島県浪江町である。

■導入の理由
東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故により、現在でも避難生活が続く浪江町。全町民が長期および広範囲にわたる避難生活を強いられている中、町から町民への情報発信サービスを確立するため、バックキャスティング思考を導入した。

■実行したこと
先にご紹介したCode for Japanに協力を依頼し、そもそも住民はどのような生活を営んでいて、どのような課題を持っているのかを把握することからスタート。その結果、タブレットを使うことで町民同士が繋がり、交流が生まれるきっかけになるという結論に。「HOW」を目的にせず、タブレット導入後に町がどう変わっていくかという世界観を描き、関係者と舵をとりながら施策を進めていった。

さらに、浪江町としてありたい姿をバックキャスティングで明確にし、県外のエンジニアや技術者、デザイナーたちと共に、多くの浪江町民もアイデアソン形式のワークショップに参加し、町民を巻き込んだ話し合いを開催した。

■得られた結果
全町民にタブレットを配布し、町民同士の交流を活性化させること、さらには浪江町を愛する心を育むことを目標に掲げ、「なみえ新聞」アプリの開発やタブレットの使い方講習会の開催、オリジナルキャラクターの開発など、さまざまな挑戦へと結びついた。

バックキャスティングを実践してみよう

いかがでしたか? バックキャスティングの大まかな概要、そして実例を知ることで、興味を持っていただけたらうれしいです。

後編では、実際に自社でバックキャスティングを実践することを念頭に、どのように準備すべきか、スムーズにすすめていくためのステップ、よくあるQ&Aなどをまとめて、ご紹介します。ぜひ後編もご覧ください!

▶︎ 後編はこちら

【ウェビナーレポート】後編 バックキャスティングをビジネスで活用するヒント

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